[セミナー]税理士とインサイダー取引

 昨日(7日),メルパルクホールで開催された東京税理士会主催の研修を聴講しました。正式な研修タイトルは『最近のインサイダー事案の傾向と当局の取組み』で,講師は,おなじみ証券取引等監視委員会事務局総務課長の寺田達史さんと,同じく取引調査課の嶋影正樹さんでした。この日の研修は,第1部が午後2時から,第2部(夜の部)が午後5時30分からで,筆者が会場に到着した午後5時過ぎ,ホールからは大量の税理士が出てきて,そのまま夜の街へ流れて行きました。結果,「インサイダー取引」の講義を聞く税理士は100名を切っていたのではないかと思います(ちなみに会場は2千名くらい入りそうでしたから,まさに「閑散とした」感じでした)。ということで,まずはお忙しい時間を割いて,東京税理士会の研修に講師としてご登壇いただいたお二人には,研修参加者を代表して感謝の意を表すと同時に,参加者が少ないことについてお詫び申し上げなければなりません。税理士がとくにインサイダー取引に関心が薄いわけではなく,税理士は夕方5時を過ぎると,急に酒税の増収に対する関心が高まってしまう習性があるということをご理解いただき,ご寛恕願えればと思います。

 同業者のみなさんの関心の有無にかかわらず,税理士がインサイダー取引で課徴金を課せられたり,税理士が情報伝達者となって,その情報をもとにインサイダー取引をしてしまったりした事例があるということで,個人的にはかなり興味を持って聴かせていただきました。また,インサイダー取引と直接は関係ないですが,紙屋さんとかカメラ屋さんをめぐる最近の報道についても,何か発言があるのではないかと(これらについては「コメントしない」と冒頭で断言されておりましたが)。

 寺田課長のお話を聴かせていただくのは3回目だと思います。課徴金を取るのが目的ではなく,未然防止が重要であること。今日の研修も,広報活動の一環であることなどが,淡々と説明されます。毎度のことながら,インサイダー取引は必ずばれてしまうことを聴き,割に合わない犯罪であると思います。契約締結者等,あるいは第一次情報受領者に該当することが多い私たち税理士は,自らインサイダー取引に手を染めないことはもちろん,不用意に洩らした情報によって,身内や友人がインサイダー取引に手を染め,課徴金を支払うはめになったり,刑事罰を問われたりすることのないよう,情報管理に気をつけなければならないと,改めて考えさせられた次第です。

 後半は,嶋影課長補佐の事例解説でした。6月に公表された課徴金事例集には目を通していたものの,こうして解説いただけると,「なるほど」という感じです。それはともかく,課徴金事例集ですが,企業名くらいは実名で公表してはどうなのでしょうか。SESCの課徴金納付命令勧告を読めば,わかるでしょうということかもしれませんが。
 ↓ ちなみに,「金融商品取引法における課徴金事例集」はこちら。
 http://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2011/2011/20110621-1.htm
 ここでも,課徴金事例の多くは,企業内部の人間よりも,契約締結者等であったり,第一次情報受領者であったりすることが説明されました。つまり,企業内部の者(役員や従業員)は,インサイダー取引についてそれなりに教育も受け,直接,インサイダー取引を行うことは少なくなったものの,情報管理に適切さを欠き,企業外部者のインサイダー取引が多くなってしまっているということのようです。そういう意味からも,未公表の重要事実を保有する期間を短くすること(タイムリディスクロージャー)が,情報管理と並び,インサイダー取引の未然防止のもう一つの柱であるとのまとめは,実に分かりやすいものでした。

 個人的には,こうした研修が年に1回くらいあってもいいとは思うのですが,昨日の参加状況をみると,来年の依頼はしづらいのかもしれません。もちろん,今回の参加者の少なさについては,冒頭申し上げた「夕方5時以降の税理士の習性」が原因となっていることは否めませんので,東京税理士会研修部におかれましては,ぜひ,午前の部の研修として,今一度,金融商品取引法関連の研修を企画していただければと思います。

【税理士 米澤 勝】