[研修]酒井克彦教授「税務調査における税理士の対応」

 昨日,中野サンプラザホールで開催されました,国士舘大学の酒井克彦教授による講義(東京税理士会会員研修)を興味深く聞かせていただきました。講義のテーマは「税務調査における税理士の対応」となっておりましたが,実際の講義は,配布されたレジュメをほとんど参照しないまま,税理士法の改正論議から始まって,税務調査における事前通知が明文規定された改正国税通則法の解説,そしてとくに,税務調査後の修正申告のあり方についてはより多くの時間を費やして論点を整理して進められました。
 平成23年12月に改正された国税通則法については,税務調査にかかわる条項が第74条の2から第74条の13にまとめて規定されており,これらの規定は平成25年1月1日施行となっています。昨日の酒井教授の講義でも,改正による影響についてのコメントが随所に挿入されていました。また,仄聞するところによれば,東京国税局管内では,施行前から改正法の趣旨を先取りした形で運営がされはじめているようで,「税務職員の事務作業を増やして,調査にかけられる時間が減少する」という批判もある今次の改正が,どのように調査実務に反映されるのか,注目されるところです。
 税務調査後の修正申告についても,それまで法律に定めのなかった税務職員による「修正申告の慫慂」という行為が,改正国税通則法では,第74条の11第3項に,「修正申告の勧奨」という形で明文化されました。同項では,「調査の結果に関し納税申告書を提出した場合には不服申立はできないが,更正の請求をすることはできる」という説明をするとともに,その旨を記載した書面を交付しなければならないとされており,勧奨にあたっての税務職員の説明責任まで,定められております。
 これまで,税務調査後の修正申告書の提出にあたっては,修正申告をして誤りを認めてしまったら,これを撤回する方法が事実上存在しないことから,法律の適用・解釈に若干でも疑義がある場合は,課税庁による更正処分を待つという姿勢が一般的でした。ところが,更正の請求期間が法定申告期限後1年から5年に延長されたことにより,修正申告書を提出した後でも,更正の請求をできることとなり,修正申告の内容に間違いがあり,課税標準または税額が過大に申告されていた場合でも救済できる道が開けたため,修正申告書の提出をためらう大きな要因は排除されたといえます。
 そのうえで,酒井教授が強調されておられたのは,申告納税制度という観点からは,当初の申告に誤りがあった場合には,たとえその誤りが税務調査によって発見されたものであっても,納税者が自ら修正申告を行うのがあるべき姿であるということで,更正処分を待つという選択には懐疑的な論調であったかと思います。
 さらに,教授は,修正申告をした場合には「加算税の軽減制度」を創設することを提案されておられます。税務調査後の修正申告であっても,更正処分の前に自発的に行ったものであれば,過少申告加算税について軽減措置を講じて,修正申告を奨励し,更正処分を行うための課税庁側の調査や署内手続きを省くことができることの見返りとして,加算税を軽減する制度があってもいいのではないかということです。

 なお,講義のもととなった酒井教授の論文『税務調査における法律問題――主体的納税者間に基づく税務調査手続きの見直し』は,東京税理士会の委託研究によるものだそうで,東京税理士会のホームページから閲覧できます。
http://www.tokyozeirishikai.or.jp/pdf/topics120420.pdf

 東京税理士会によると,

本会では、改正国税通則法に係る税務調査手続について、会員業務の資質向上に資するため、国士舘大学法学部の酒井克彦教授に研究委託しておりました。
ということのようですが,「会員業務の資質向上に資するため」と言いながら,会員以外も自由に閲覧できるというのはどうなんでしょうか(などとケチなことを言ってはいけないですね)。

【税理士 米澤 勝】