[書籍]安田佳生『私,社長ではなくなりました。――ワイキューブとの7435日』

 夏休みの読書感想文みたいで恐縮です。

私、社長ではなくなりました。 ― ワイキューブとの7435日

私、社長ではなくなりました。 ― ワイキューブとの7435日

 正直,同じく破綻したデジキューブの社長の本と勘違いして読んでしまいました。ワイキューブという会社は,社風がユニークで有名だったそうですが,残念ながら,筆者はよく存じ上げませんでした。社長であった安田さんは,『千円札は拾うな。』がベストセラーとなっていたとのことで,これも,タイトルに聞き覚えがあったくらいで,著者の名前までは覚えておりませんでした。
 読み始めると,面白くて,1時間あまりで,安田社長とワイキューブの20年間を読み終えてしまいました。「社長はたいへんだ」というのが実感で,それは著者である安田さん自身が,社長であることを認識した場面と,破綻後に社長業はつらかったと述懐する場面に現れています。

 社長を意識する場面。

 みんなで責任をとるということは,誰も最終的には責任をとらないのと同じである。みんなの問題だと捉えているうちは,誰も本気で考えないからだ。
 会社にとって必要と思われる決定事項を,ある程度のスピードをもって進めていくには,誰かがリーダーシップを発揮しなければならなかった。
 ワイキューブを設立してはじめて,私は役員会でこう提案した。
「相談はもちろんするけれども,最終的には社長である私が決めるので,その決断に従ってほしい」

 民事再生手続き開始後の述懐。

 社長としての歴史は最終決定の連続だった。
 子どものころからリーダーと呼ばれる立場にはなったことがなかった私に,この役目は重荷だった。 
 たいていの物事には答えなどない。それでも考えて,決断し,会社の方向性を示すのが社長の役目だった。

 破綻前には,銀行融資を維持してもらうために,粉飾決算もあったようですが,これも,中小・中堅企業では,大なり小なり,あることかもしれません。

 これまで銀行からの借り入れを維持するために,かなり無理をして売上を計上していた事実が明らかになった。
決算のやり方を見直したところ,これまで黒字だと申告していた決算が,10億円くらいの赤字だったこともわかった。

 そんな安田社長とワイキューブ民事再生手続き開始申請を伝えた東京商工リサーりの速報の一部を引用します。

東京商工リサーチ倒産速報 公開日:2011.03.31
(株)ワイキューブ(新宿区本塩町21、設立平成2年11月、資本金8775万円、安田佳生社長)は3月30日、東京地裁民事再生法の適用を申請した。負債は債権者146名に対し総額40億1101万円。
代表の安田氏は社長業の傍ら外部団体主催・経営者向けセミナー講師を務め、また「ぐっとくる?」、「検索は、するな。」、「千円札は拾うな。」などの著書を有するなど執筆活動も行い、また事務所地下に社員専用バーやホテルラウンジを思わせるカフェスペースを設置するなど話題を集めていた。
しかし、リーマン・ショック後の急激な景気後退の影響を受け、企業の採用抑制に押され減収が続き21年3月期の年商は約30億円に減少。さらに22年3月期の年商は15億円を割り込み、リストラ策も追いつかず今期に入っても低迷を抜け出せず自力再建を断念し、法的手続きによる再建を目指すこととした。

 再生計画も承認されて,事業譲渡を受けた新会社の業績は順調そうで,最後まであまり暗くない経営破綻物語でした。

【税理士 米澤 勝】