[税制改正]平成25年度税制改正に関する重点要望事項

 日本税理士政治連盟の機関紙8月1日号に,日本税理士会連合会と日本税理士政治連盟の連名による,平成25年度税制改正に関する重点要望事項が掲載されていました。

1. 税制に関する災害基本法を制定すること
2. 土地建物等の譲渡損益は,他の所得との損益通算を認めること
3. 青色申告者の純損失の繰越控除期間等を延長すること
4. 役員給与の損金不算入規定のあり方を見直すこと
5. 交際費課税における交際費等の範囲を見直し,社会通念上必要な交際費等の支出は原則として損金算入するとともに,定額控除限度額内の10%課税制度は即時に廃止すること
6. 消費税のあり方について次のとおり見直すこと
(1) 基準期間制度を廃止または抜本的に見直すこと
(2) 仕入税額控除の要件とされている帳簿の記載は,一定の条件を満たす請求書等を保存している場合は簡略化すること
7. 少額減価償却資産の取得価額基準を引き上げること
8. 非上場株式等に係る相続税及び贈与税の納税猶予制度における諸条件を緩和すること
9. 国税通則法の目的を改正し,納税者権利憲章を早期に成立させること

 個人的に気になる要望事項について,コメントを附します。

 土地建物等の譲渡所得の赤字については,平成16年改正で,他の所得(たとえば事業所得や給与所得)との損益通算が認められなくなりました。これは,法律が成立した3月末から平成16年1月1日遡及して適用されたことから,当時から大いに問題となった改正でしたが,最高裁判所は,この不利益遡及立法を違法ではないと判断したものです。
 最高裁判決に関しては,当ブログでも,コメントいたしました。
http://d.hatena.ne.jp/takanawa2009/20111012/1318391684
 いまさら,この規定をもとに戻すのはたいへんそうなのですが,所得税は本来すべての所得を通算した『総合課税』であるべきというのが,「応能負担原則」から導かれる考え方であり,また,路線価が年々下がり続けていること=土地建物等の譲渡による損失が発生する可能性が高まっていることからも,現行の租税特別措置法第31条第1項における,
「この場合において,長期譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは,所得税法その他所得税に関する法令の規定の適用については,当該損失の金額は生じなかつたものとみなす。」
という規定は廃止すべきであると考えます。

 青色申告者の純損失の繰越控除期間を現状の3年から延長すべきという主張は,青色申告法人の繰越欠損金の損益算入期間が7年に延長されたこととの見合いでなされているようですが,本来,繰越に期間制限を設けること自体が納税者に不利な規定であり,期間制限の撤廃を主張すべき事案のように思います。

 役員給与と交際費については,本来,損金の額に算入されることが当然であるべき販売費及び一般管理費にもかかわらず,種々の政策的配慮のため税制が歪められてきた面がありますので,原則損金算入,一定の場合にのみ損金不算入というのを明確に定めるべきです。とくに交際費課税については,制度を存続するのであれば,租税特別措置法によるのではなく,法人税法を改正して行うべきであり,交際費等の定義に含まれている不確定概念を明確にして,納税者の予測可能性を高める必要があると考えます。
 交際費等の課税の見直しに関連しては,前回のブログでも,以下のようなコメントを書きました。
 法人の冗費・濫費を抑制し,資本充実のための制度とされてきた交際費等の損金不算入の規定が,制定から50年以上を経過して,時代に合わなくなっているのではないかというのが,最近の筆者の感想です。本来,時限立法であるはずの租税特別措置法に50年以上の長きにわたり居座り続け,度重なる改正の結果,規定本来の趣旨は忘れ去られ,ただ,課税しやすいから,税収が減少しないようにという配慮だけで生き残っている,現行交際費課税の制度は,そろそろ抜本的に見直すべき時期に来ているのではないかと感じています。
 納税者権利憲章の制定については,平成23年度改正からこぼれてしまったことが今更ながら残念ですが,これまでの経緯を見ても,自由民主党が政権の座に戻ってくるとまず制定は不可能になると思われますので,民主党政権が存続している間に,ぜひ,実現していただきたいものだと考えています。

 さて,例年なら年末に公表されることになる平成25年度税制改正大綱には,このうちどの項目が採用されるでしょうか。

【税理士 米澤 勝】