[税務調査]建設会社の近隣対策費は交際費

 税務上の交際費の概念は,一般に考えられているより相当広くて,判決などを読みますと,「そこまで交際費として扱うのはどうかな」と首を傾げることも少なくないのですが,建設会社が,工事にあたって近隣の住民や商店に配る商品券,手土産,休業補償金などのいわゆる近隣対策費については,交際費等に該当するため,法人税の計算上は損金に算入できないというのは,比較的わかりやすいのではないかと思っておりました。
 交際費等の定義については,租税特別措置法61条の4第3項に規定がありますが,「その他の」「その他」といった不確定概念が1つの条文に3つも使用されていることから,規定そのものよりも,判決の中で示された3要件説(萬有製薬事件,東京高裁平成15年9月9日判決)が一般的な定義とされています。
1 支出の相手が事業に関係のある者であること
2 支出の目的が相手方との親睦を密にして取引関係の円滑な進行を図ること
3 支出による行為の形態が接待,供応,慰安,贈答その他これらに類する行為であること

 本日の東京新聞朝刊社会面では,東証一部上場の矢作建設工業名古屋市東区)が名古屋国税局の税務調査を受け,2011年3月期までの7年間で約1億円の所得隠しを指摘された,と報じています。

東京新聞HP
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2012072502000115.html

 これは,同社が,経費として工事原価に算入していた,建設工事に際して,地元住民に配る手みやげなど「近隣対策費」について,国税局は課税対象となる交際費と判断したというものです。
 近隣対策費については,租税特別措置法上の定義でも,前述の3要件説でも,交際費等に該当することは免れないと思いますので,矢作建設工業社が,「既に修正申告し納税した」というのもなるほどと思うところです。
 なお,近隣対策費の一部を下請けへの発注工事費に紛れ込ませ,意図的に利益を圧縮したとして,重加算税も課されたということですが,これに対して会社側は,

「近隣対策費は工事原価に含むことができると考えてきた。指摘は真摯に受け止めている。意図的に隠したわけではないが,何に使われたか,正確には把握していない」

とコメントしているようです。

 記事の中でひとつ気になったのは記述がありました。

全国建設業協会は2005年から「近隣対策費は,工事を円滑に施工するための必要経費で,一般の交際費とは異なる。課税範囲から除外してほしい」と繰り返し国に要望している。

 こうした要望が通ってしまうと,それはそれで大変なことになるではないかと思います。
 近隣対策費が,工事によってこうむる被害に対する損害賠償的な意味合いを持つことを強く主張すれば,交際費等ではなく,損害賠償金として損金に算入できるという考えも成り立たなくはないと言えそうですが,個別に損害額を算定して,それを補償するというのは実務上難しく,現在のように一律に商品券や手土産を配るというのでは,交際費として課税されるのはやむを得ないではないかと。
 むしろ,法人の冗費・濫費を抑制し,資本充実のための制度とされてきた交際費等の損金不算入の規定が,制定から50年以上を経過して,時代に合わなくなっているのではないかというのが,最近の筆者の感想です。本来,時限立法であるはずの租税特別措置法に50年以上の長きにわたり居座り続け,度重なる改正の結果,規定本来の趣旨は忘れ去られ,ただ,課税しやすいから,税収が減少しないようにという配慮だけで生き残っている,現行交際費課税の制度は,そろそろ抜本的に見直すべき時期に来ているのではないかと感じています。
 そろそろ,交際費等は,法人税法本来の損金算入を認め,役員の私的使用や公私混同のような支出に対しては,役員に対する報酬または賞与として,現行規定の中で,法人の損金の額への算入を制限し,あるいは,役員個人の所得税課税を行うというのが,本来の姿ではないかと考えるのですが,いかがなものでしょうか。

【税理士 米澤 勝】