[税制改正]平成23年度改正のまとめと平成24年度税制改正大綱

 一昨年12月,政府の「平成23年度税制改正大綱」は,いま読み返してみても,たいへんに良くできたものであったと思います。そこには,野党時代の民主党(今思えば,消費税増税には反対でした)が,日本の税制はこうあるべきだという理念が語られていました。もちろん,その筆頭は「納税者権利憲章」の制定をはじめとした納税環境の整備であったことは言うまでもありません。すっかり所得の再分配機能を失っている相続税,高額所得者優遇策が行き過ぎてしまった所得税を,少しでももとに戻そうとする改正案も,納得できるものだったはずです。
 しかし,改正法案を提出した政府・民主党を待っていたのは,東日本大震災福島原発の事故でした。それだけが要因とはいえないかもしれません(ねじれ国会で法案審議が頓挫するという常況だったこともあります)が,平成23年度税制改正は次の5つに分かれて審議され,法律が改正されてきました(表記は略称,()内が正式名称)。

1 つなぎ法 3月31日成立,4月1日施行
(国民生活等の混乱を回避するための租税特別措置法等の一部を改正する法律)
2 震災特例法 4月27日成立・施行,12月17日改正,12月14日施行
東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律)
3 税制整備法 6月22日成立,6月30日施行
(現下の厳しい経済状況及び雇用情勢に対応して税制の整備を図るための所得税法等の一部を改正する法律)
4 税制構築法 11月30日成立,12月2日施行
(経済社会の構造の変化に対応した税制の構築を図るための所得税法等の一部を改正する法律)
5 復興財源確保法 11月30日成立,12月2日施行
東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法)

 先週から今週にかけて,税制改正に関するセミナーをいくつか受講しましたので,そのまとめの意味もこめて,これらのうち,税制整備法,税制構築法及び復興財源確保法について,実務に与える影響が大きそうなものを簡単にまとめておきたいと思います。

税制整備法(平成23年6月改正)
(1) 所得税→平成23年度確定申告から実施
年金所得者の申告手続の簡素化
→ 公的年金等が400万円以下,かつ,他の所得が20万円以下の者は確定申告不要
(2) 法人税
・雇用促進税制の創設
→ 1人当たり20万円(法人税額の10%(中小企業者の場合は20%)を限度)
→ 中小企業者については,法人住民税についても同額の税額控除
・グループ法人税制の見直し
→ 100%グループ内の複数の大法人に保有されている中小企業者に対する課税強化
(軽減税率,交際費等の損金不算入制度における定額控除制度などの適用なし)
(3) 消費税
課税売上高が5億円超の事業者における95%ルール(仕入税額の全額控除)の見直し
(4) 相続税
連帯納付義務の履行に伴う延滞税は利子税とする(14.6%から4.3%へ軽減)

税制構築法(平成23年11月改正)
(1)法人税法
・税率引き下げ 30%→25.5%
中小法人の800万円以下の所得 22%(18%)→19%(15%) ()内は措置法規定
減価償却の定率法を250%から200%に引き下げ(耐用年数と整合性なし)
・貸倒引当金の原則廃止
・繰越欠損金控除の制限(80%)と期間延長
・更正の請求範囲拡大
(2) 国税通則法
・更正の請求期間の延長
→ 更正の申出制度(法律規定にない運用)
→ 平成19・18年分についても,更正の事由が同じであれば,更正を認める
・質問検査権
→ 各税目において定められていたものを通則法にまとめる
・税務調査の事前通知
・税務調査終了の際の手続
・処分の理由附記
→ 行政手続法第8条,第14条の規定の適用除外規定を外す。

復興財源確保法(平成23年11月制定)
・復興特別所得税
平成25年1月1日から平成49年12月31日まで(25年間)
復興特別所得税=基準所得税額×2.1%
源泉徴収の例】
上場株式の配当 <国税>7%→7.147%,(地方税)3%
利子 <国税>15%→15,315%,(地方税)5%
報酬等の源泉徴収 <国税>10%→10.21%
・復興特別法人税
平成24年4月1日から平成27年3月31日までの期間内に最初に開始する事業年度から同日以後3年を経過する日までの事業年度(必ず36カ月)
復興特別法人税額=各課税事業年度の課税標準法人税額×10%


 印象としては,平成23年度税制改正大綱で掲げた目標の3分の1程度しか実現できていない,というところでしょうか。積み残した部分は,平成24年度税制改正大綱と社会保障と税の一体改革素案へと継承されているようですが,残念ながら,「納税者権利憲章」の制定については,完全に見送りとなってしまったようです。昨日から国会審議も始まりましたが,平成24年度税制改正大綱がどうなるか,社会保障と税の一体改革の行方もまったく不透明なのが現状でしょう。
 また,本年の改正は,改正時期,施行期日ともにまちまちで,実務への適用で混乱する恐れがあります。また,復興特別税に関しては,申告書の様式はどうなるのか,とくに個人の所得税において過重な負担がかかるのではないかとか,源泉徴収事務はどのように行うのかなど,疑問点が数多くあるので,今後の国税庁からの情報発信を注視したいと思っています。
 それにしても,上場株式の配当を受け取る場合,額面1万円であれば,現状9千円が振り込まれるわけですが,平成25年1月からは8,986円になったり,私たちがいただく報酬についても,1万円から1,021円源泉徴収されて8,979円となったりするなど,復興特別所得税源泉徴収については,かなり混乱しそうです。

【税理士 米澤 勝】