[セミナー等]明治大学専門職大学院特別講義『虚偽記載等の証券不公正取引と証券取引等監視委員会の対応』

 昨日(1月16日),明治大学専門職大学院会計専門職研究科特別講義として行われた,証券取引等監視委員会委員・公認会計士の福田眞也氏の講義が一般にも公開されているということで,聴講させていただきました。
 聴講したのはざっと50名ほど。教室には大学院生に交じって社会人らしき人も10人くらいはいたでしょうか。その中には,筆者が所属している公認不正検査士(CFE)の勉強会メンバーが5人含まれていました。

 証券取引等監視委員会の概要説明から始まった講義が熱を帯びてくるのは,具体的な不公正取引の事例紹介に入ったあたりからでしょうか。プロデュース,エフオーアイシニアコミュニケーショントランスデジタル,NESTAGEといったおなじみの会社の不公正取引事例が,分かりやすく紹介されます。中でも,シニアコミュニケーション社の第三者委員会報告については,「将来会計士として監査をするうえで参考になることが多く,現在でも公開されているので,ネットで検索して読んでおいた方がいい」と評されていました。シニアコミュニケーション社は,有価証券報告書虚偽記載で上場廃止になったものの,ビジネス自体は継続しています。知人の公認会計士の話でも,同社の第三者委員会報告書は,法人が粉飾を隠匿する手口が詳細に書かれていて,会計監査の現場にも大きな影響を与えているようです。
 現在調査中の案件として「大型公募増資」につても説明がありました。本来なら第三者割当増資の公表があり,株式の希薄化を嫌がる投資家によって株式が売られ,株価が下落すべきところ,一部の大型増資について,その公表前から株価が下落している事案があると報道されているところですが,「新たに室を設けて調査している」とのことで,これは以前,「国際取引等調査室」が新設されたという報道がありましたので,そこで調査していることを意味しているようです。
 時節柄,オリンパス事件や大王製紙事件についても,若干のコメントはありましたが,具体的な調査状況などは語られませんでした。また,大王製紙事件については,「特別背任は会社法違反なので,証券取引等監視委員会には告発権限はない」「あくまで金融商品取引法違反だけが調査対象である」旨のご説明があり,当然といえば当然なのですが,証券取引等監視委員会といえども万能ではないということで,妙に納得いたしました。

 前の講義が延びた影響で定刻より少し遅れて始まった講義は,あっという間に90分が過ぎ,最後に質疑が行われることになりました。教室からの質問者はなく(私たちは大学院生の邪魔をしてはいけないと自粛しましたので),コーディネーター役の教授から,
1.課徴金処分にするのか告発にするのかどう決めるのか
2.インサイダー取引は必ず見つかるのか
といった趣旨の質問がありました。
 最初の質問には,「そもそも調査着手の段階で,刑事告発が見込まれる場合は特別調査課が,それ以外は取引調査課がその任に当たるよう仕分けている」こと,「個別の事件ごとに重要性や内容によって判断する」という説明があり,インサイダー取引については,あおぞら銀行行員によるインサイダー取引が,山口県下関市で行われた事例を引き合いに出しながら,「売買した人を特定することはできるが,その者とインサイダー取引を依頼した者を結びつけたり,情報伝達者を発見したりするのが困難である」から,「100%摘発はできていないのではないか」とのコメントがありました。

 証券取引等監視委員会の話を聞くといえば,決まって,総務課長さんの出番という感じでしたので,現職の委員(委員長を含め3名しかいない)である福田先生の話を聞くことができたことは,たいへん有意義でした。
聴講後は,例によって,勉強会メンバーと御茶ノ水駅近くの居酒屋で反省会を行い,1日を締めくくりました。

【税理士 米澤 勝】