取締役会の意思決定――オリンパス社粉飾決算

 連日,オリンパスによる粉飾決算問題の続報が伝えられていますが,けさの東京新聞の記事では,『財務系役員が買収強行』と題して,次のような「非財務系の元取締役」のコメントを載せています。

 取締役会では、巨額の投資が菊川剛前会長兼社長らから提案されるたびに疑問の声が出たが、財務系役員に封じ込められたという。元取締役によると、財務系以外の取締役からの質問は菊川氏、山田秀雄監査役や財務系役員が専門知識を使い「言いくるめた」という。非財務系の元取締役は「財務の専門知識をまくしたてられると、よく分からなくても『そうなのか』と受け入れてしまった」と話している。
↓ 東京新聞の記事はこちら
http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/news/CK2011111102000013.html

 具体的な財務系役員というのが,解任された副社長を指すのかどうかは分かりませんが,同社の取締役会の様子の一端が垣間見られる発言です。

 ちょうど,東洋大学社会学部の今井芳昭教授が書かれた『影響力――その効果と威力』(光文社新書)を読んでいたところだったのですが,この「非財務系元取締役」の発言を裏づけるような記述があり,取締役会のような集団における意思決定が,常に最善の判断を下すものではないことを,社会心理学でも検討されているようです。

影響力  その効果と威力 (光文社新書)

影響力 その効果と威力 (光文社新書)

 集団が必ずしも最善の結論を下せるとは限らないことを,「集団的浅慮」と呼び,集団のメンバーがその集団に魅力を感じ,今後も所属し続けたいと思う程度(「集団凝集性」と呼ぶそうです。)が高い集団では,たとえ各メンバーの能力が高くても,強いリーダーシップが発揮されると,満場一致を求めるあまり,集団として誤って判断を下してしまうことがあると結論づけた研究があるようです。
 また,その要因としては,専制的なリーダーシップの存在,集団が周囲から孤立していること,問題解決が困難なストレスフルな状況に集団がおかれていることなどが挙げられており,マスコミ報道などから仄聞しているオリンパス社の取締役会の運営状況を推察してみますと,取締役会のメンバーであり続けたいという各取締役の意思があり,菊川前会長兼社長という強いリーダーシップを発揮する存在があり,さまざまな経営課題を抱えている取締役会が周囲から孤立してストレスフルな状況におかれていたこと(損失隠し問題を知っていたか否かにかかわらず)は明らかであったと思われますので,常に,「集団的浅慮」に陥ってしまう危険性はあったというべきでしょうか。

 オリンパス社は,外部調査委員会の調査結果の報告を受けてから第2四半期報告書の適正性を確認するため,その提出が遅延するということで,東京証券取引所により「管理銘柄(確認中)」の指定を受けました。今後は第三者委員会による調査結果の報告が待たれるところですが,1カ月程度の短期間で,損失発生時まで遡って調査を行うことが可能なのかどうか,外部にいると推測される粉飾に加担した者の協力がどこまで得られるのか,たいへん難しい判断を強いられることになろうかと推察します。
 第三者委員のみなさんには申し訳ないですが,本事件の全容を分かりやすく解説していただいたうえで,今後,同じような粉飾事件の発生をどうやって防止し,または早期に発見できるか,具体的に踏み込んだ提言まで織り込まれた報告者が公表されることを期待しております。

【税理士 米澤 勝】