[税制改正]相互協議の不調と移転価格税制平成23年度改正

 移転価格税制における更正所得金額の記録(1,223億円)を持つ武田薬品工業社が,去る11月4日,更正処分に関する適時開示情報を出しました。「移転価格税制に基づく更正処分にかかる相互協議の終了と異議申し立て手続きの再開について」と長いタイトルを付されたリリースは,
1 大阪国税局による移転価格税制に基づく更正処分について,二重課税の排除を求めて申し立てていた国税庁と米国の相互協議が合意に至らず終わったこと
2 そのため,いったん中断していた異議申立手続を再開し,その過程で武田薬品工業社の主張の正当性を訴えること
と説明したうえで,同時に,「地方税を含めた追徴税額は571億円であり、当社は2006年7月にその全額を納付しています」としている。

↓ ニュースリリースはこちら。
http://www.takeda.co.jp/press/article_47318.html

 武田製薬工業社の言い分はこうです。
 米国子会社への製品供給価格が低く,それを是正して,親会社の利益が大きくして課税するというのなら,当然,米国子会社の所得を少なくして税金を還付させ,国際的な二重課税を排除すべきである。もし,それ(相互協議)が合意できるなら,大阪国税局の更正処分に従いましょう。しかし,今回,合意に至らなかったということなので,日本国内の異議申立続きを再開し,審査請求,訴訟を通じて,課税処分の取り消しを求めていきます。
 この事案は,何より更正された所得金額が大きいことで注目されますが,移転価格の対象とした子会社が(100%子会社ではなく)現地企業との50%対50%の合弁会社であり,実質的支配権,価格決定権なども論点となりますので,納税者と国税局の論争を注視していきたいと思います。
 それにしても,相互協議で国税庁と米国の税務当局が合意に至らなかった理由が気になるところです。

 というわけで,何かと争いの絶えない移転価格税制ですが,平成23年度も大きく改正が加えられています。改正のポイントは,次のとおり集約されます(弁護士 南繁樹「実務解説 移転価格税制23年度改正のポイント」税務弘報2011年12月号,88頁)。

【POINT】
移転価格税制導入以来の大きな改正
1. 独立企業間価格の算定方法の適用順位の見直し(基本三法優先原則の廃止)
→ 営業利益率に着目する方法(取引単位営業利益法・利益分割法)の定着を反映
2. 利益分割法の明確化
→ 残余利益分割法の適法性に関する疑義を払拭(「独自の価値ある寄与」が認められる場合に適用)
3. 独立企業間価格のレンジの取扱いの明確化
→ 「幅」の範囲内にある場合は課税を行わないことを明記
4. シークレットコンパラブルの運用の明確化
→ 限定的な運用であることを明記

 こうした改正点について,措置法通達,事務運営指針,参考事例集などが去る10月27日付で公表されました。

↓ 国税庁HPはこちら
http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/jimu-unei/hojin/kaisei/111024/01.htm

 筆者もこうした改正についてフォローをしておきたいと思い,二つの研修に参加しました。一つ目は,『税を考える週間』に合わせて開催されている税務大学校公開講座における,税務大学校の田中俊久教授による「最近の移転価格税制の動向−平成23年度改正とその背景−」。もうひとつは,東京税理士会支部主催の税務研修会における上原一洋税理士の「移転価格税制の現状―税制改正や執行状況を踏まえて―」。いずれの講義も,移転価格税制の過去から説き起こし,最近の課題とその対応策として税制改正について,詳しくご説明いただき,たいへん参考になりました。

ポケットブック移転価格税制 2011年版―WEBサイトで最新情報検索に対応

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 とくに上原一洋先生からは,9月に発刊したばかりの著作までいただき,本当にありがとうございました。さっそく活用させていただきたいと思っています。

【税理士 米澤 勝】