[企業不正]大水社,2回めの不適切な取引の公表

大証2部上場の株式会社大水が,平成21(2009)年2月に続いて,不適切な取引に関する調査結果を公表しました。
https://www.release.tdnet.info/inbs/140120110524035500.pdf

今回の不適切な取引も,結果的には最初のものと同じく,架空取引を含む循環取引であったことが判明しています。しかも古い取引は平成17年ころから始められたことがわかっており,どうして,前回の調査時に,本件不正が発見されなかったか,気になるところです。そこで,前回の外部調査委員会報告書を再読してみますと,最初の調査時に,同社社内調査チームは「他の循環取引などの不適切な取引は発見されなかった」とし,外部調査委員会もこの調査結果を検証のうえ,「他に同様の取引がないものと判断した」としておりました。もっとも,「時間的制約かつ取引の膨大さの中ですべての取引を精査することは困難であることを前提」の調査であり,今回の不適切な取引が前回と比しても10分の1に満たない少額なものであったこともあり,発見には至らなかったものでしょう。
確かに,サンマの循環取引は平成17年12月から始まっているようですが,当初の在庫評価額25百万円程度が半分に下がったことがきっかけであったこと,同じくサバの循環取引も評価額45百万円程度の在庫が半値になって,平成20年3月ころに始まったことなどを勘案すると,平成21年1月ないし2月の段階で,これらの不適切な取引が発見できなかったのは無理もないかもしれません。

今回の外部調査報告書では,本件循環取引が発覚しなかった点について,このような記載があります。

平成21年7月,現代表者が就任直後,(中略)全社員に対し,不適切な取引をしている者があれば正直に申告すれば咎め立てしないとの呼びかけを行ったが,当該社員は自己保身の気持から,本件取引を自発的に申告できなかった。(中略)当該社員は社内では概ね真面目で仕事熱心な人物であると評価されていた。

そうした自己保身の背景には,こんな思惑も。

当該社員は,循環取引を継続している間にサバやサンマの相場が再び上昇するなどして,その際に適宜在庫を売り捌くなどすれば,本件事態を表面化させることなく解消できるだろうという期待ないし見込みを当初有していた。

「罪を問わない」という経営トップの意思がどこまで浸透していたのかは不明ですが,過去の成功体験でもあったのでしょうか,残念ながら,この呼びかけは通じることはなく,当該社員は,「後ろめたさを感じつつも」取引を継続していたようです。
 客観的には,自発的申告をする方が利益が大きいに決まっている場面で,こうした判断をしてしまう人間の行動は,行動経済学では,損失回避性に基づく現状維持バイアスなどと呼ぶようですが,単に「罪を問わない」だけにとどまらない,自発的申告を促す手段が必要であったのかもしれません。
 たとえば,もっと具体的に,「人事考課上一切問題にしない(直属の上司や人事部門には知らせない)」とか,「後で発覚した場合にはより厳しい処分を行う」,「周囲の不適切な取引が疑われた場合には,経営トップに直接情報を上げても構わない」など,さすがに,自発的申告者を表だって褒めるところまでは無理かもしれませんが,自発的申告を促す仕組みがどの程度であったか,当該社員の心理面も含めて,気になるところです。

 なお,今回の発覚の経緯ですが,内部監査室が平成21年7月以降新たに採用したモニタリング手法により,「異常な兆候」を発見し,内部監査室が改善を求めたが改善されなかったため,常務執行役員管理本部長らが事情聴取を行った,という風に説明されています。前回の不適切な取引の発覚が,第三者(取引先)からの通報(おそらく支払いを求めるものであったと思われます)であったことを勘案しますと,モニタリングで異常な兆候を発見できたという点では,前回の再発防止策が実効性を伴って実施されてきたという評価はできるのではないでしょうか。

 それにしても,当初サンマ25百万円,サバ45百万円のそれぞれ半額程度の評価損を糊塗するために始めた不適切な取引が,発覚したら,年間601百万円の売上(すべて取り消されています)が計上されるまでに膨らんでいたというのは,雪だるま式に取引金額が大きくなってしまう架空循環取引の恐ろしさでしょうか。

【税理士 米澤勝】