[話題]被災地債権の放棄

 けさの東京新聞朝刊2面に共同通信配信の記事が載っていました。
http://www.47news.jp/CN/201105/CN2011053101001141.html

 横浜市西区債権回収会社サービサー)「栄光債権回収」は31日、東日本大震災で被災した債務者1152人を対象に、計約29億6750万円分の債権を放棄すると発表した。対象は岩手、宮城、福島、茨城各県の災害救助法の適用を受けた自治体で、4月30日時点で債務がある人。申し出があれば、金銭消費貸借契約書などを返却する。

 被災されたみなさんの復興支援の柱として二重ローンを回避する方策をとるべきだという主張は,日弁連からも出ておりますが,どうにも重い政府の動きに代わって,民間のサービサーが,決断をしたもののようです。
↓ 日本弁護士会連合会による提言
http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/report/data/110422_2.pdf

 さっそく,同社のHPを確認しますと,「『東日本大震災』被災地域内所在の皆様に対する債権放棄のご案内」という文書が,代表取締役名で掲載されておりました。
http://www.a-co.co.jp/hisai.html

 債権放棄の理由としては,

 このたびの地震津波の被害が広範囲かつ甚大であることから、被害地域内の弊社債権がある被災者の方々のご負担を軽減するため、平成23年4月30日現在において同地区所在の皆様に対して、弊社が保有している債権を放棄することと致しました。この債権放棄に伴い、保管している金銭消費賃借契約書等の債権書類をご希望によりご返却しますので、ご希望されるお客様は弊社あてご連絡をお願いします。

と書かれており,連絡が必要な方は「金銭消費貸借契約書等の返却を希望されるお客様」に限られるようですので,被災した方々が個別に債権放棄を依頼するのではなく,サービサーである同社が,いわば一方的に,債権を放棄するという趣旨のようであります。

 HPで公表されている貸借対照表の要旨では,平成22年3月31日現在,同社の総資産は396百万円で,158百万円の債務超過となっていたようですので,今回の債権放棄対象額の簿価は,公表された29億円余りよりは相当に低いものとは思いますが,それでも,大英断です。千人を超える債務者のみなさんは,額面通り29億円余りの債務を背負っていらっしゃるわけですから,朗報であることは間違いありません。同じく,HPの「沿革」によれば,同社は昨年12月に主要株主が異動し,それに伴い,現代表取締役が就任されたようですので,現代表者の強いリーダーシップが発現されてのものではないかと推察します。

 また,先ほど引用した「ご案内」の続きには,

 余震や福島第一原発の損傷事故等により被害地域では未だ不安な生活が続いていることと存じますが、弊社役職員一同、皆様が早く安全で健康な生活が送れますことを重ねてお祈り申し上げます。

という記述もあります。
 サービサーとして決して大きくはない栄光債権回収株式会社――小職は今回の記事で初めてその会社の存在を知りました――の決断を,被災者のみなさんそっちのけで政争に明け暮れているように見える,国会議員の先生たちは,どのように考えるのでしょうか。

 税理士としては,この債権放棄が法人税の計算上損金算入が認められるかどうかといった論点も気になるところではありますが,債権放棄を受けた千名を超える被災者のみなさんにとっては,国税庁が用意した「災害損失特別勘定」といった税制上の措置よりも,よほどありがたい申し出であったに違いないと,考えた次第です。

【税理士 米澤勝】