[書籍]『詳説 不正調査の法律問題』

詳説 不正調査の法律問題

詳説 不正調査の法律問題

 粉飾アレンジャーなどという呼称が,マスコミに採り上げられるご時世ですので,企業不正は増えることはあっても減ることはないのでしょう。本書は,企業不正の調査現場で直面する様々な課題について,実に丹念に書き込まれており,たいへん興味深く読ませていただきました。とくに,調査対象者に対するヒアリングについて書かれた部分は,読み応えがありました。

 著者が指摘されている点で,なるほどとうなずいたのが,不正に加担したと思われる従業員に対する自宅待機命令について,説明された箇所でした。

 企業が業務命令として自宅待機命令を下す場合に,不正行為を行ったことを理由とする場合が散見されるが,そのような理由を付した場合,後の懲戒処分について,調査対象者が,先の自宅待機命令は不正行為に対する制裁として行われた懲戒処分であり,後の懲戒処分は二重処分の禁止に反して違法・無効である等と主張するおそれがある。

 確かに。
 ただ,不正調査の対象となった従業員から,「なぜ,自宅待機しなきゃならないのか」と詰問された場合,理由も説明せずに,自宅待機を命じるというのはなかなか難しい気がします。とくに,直属の上司がこうした命令を告げる場合には,つい,「わかっていると思うけど」なんて,不正のことをにおわせたりして,要注意かもしれません。やはり,こうした際の「自宅待機命令」は人事部長あたりが,こうしたリスクも承知したうえで,本人に告げるべきだな,と思った次第です。

 実際の不正調査の過程で,疑問を抱いたり,迷ったりした場面で,何度もページを繰ることになりそうな1冊です。

【税理士 米澤 勝】