[法人税]災害損失特別勘定

国税庁が4月20日に公表した「東日本大震災に関する諸費用の法人税の取扱いについて(法令解釈通達)」が話題になっています。
http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/tsutatsu/kobetsu/hojin/110418/hojin_atsukai.pdf

簡単に内容をご紹介します。

法人が,災害のあった日の属ずる事業年度において被災資産の修繕等のために要する費用の見積額として,次の(1)または(2)の金額のうちいずれか多い金額以下の金額を災害損失特別勘定として処理したときは,その金額は,その被災事業年度の所得の金額の計算上,損金の額に算入する。
(1) 被災資産の時価が帳簿価額を下回る場合の時価と帳簿価額の差額
(2) 被災資産について,災害のあった日から1年を経過する日までに支出すると見込まれる修繕費用等の額

被災資産については,時価と帳簿価額の差額または修繕費用の見積額のうち,いずれか多い金額を損金の額に算入できる,ということで,とくに後者については,「実質的な法定外の引当金」の計上が容認されたものとして,筆者が入会している租税訴訟学会のメーリング・リストでも,議論になっているところです。
租税法律主義のもと,法定外の引当金の計上を国税庁長官による通達で容認することの是非(「震災特例法」の中で規定されているべき)はもちろん,通達の法的効力や実効性などが論点でしょうか。

 本通達が発遣されるより前,3月30日には,日本公認会計士協会が会長通帳「東北地方太平洋沖地震による災害に関する監査対応について」を公表しております。
http://www.hp.jicpa.or.jp/specialized_field/post_1490.html

 この通牒を読むと,本通達は,会計士協会の監査対応と税務上の取扱いの調整を意図して発遣されたものではないかと思料します。これまでも,監査法人からは資産の減損処理をはじめ,合理的な見積額を当期の損失に計上するよう指摘を受けながら,法人税の算出にあたっては,その損失を否認(損金不算入)してきたわけですが,本通達により,東日本大震災に被災した場合には,こうした会計上と税務上の不一致が少しは解消されることとなりそうです。本通達の発遣の経緯は不明ですが,税理士会から国税庁に対する働きかけによって,課税庁側が解釈を明らかにするために通達が発遣されたということであるべきなのでしょうが,残念ながら,そうではないようです。

 また,租税訴訟学会のメーリング・リストに投稿された宮城県の税理士からは,この通達の有効性について,こんなコメントも寄せられています。

 本通達を適用する事の実益は,全体的には,今回の震災による甚大な被害にも関わらず,個別的には,法人税の課税を原則1年繰り延べ,その納税資金を震災復旧費用に充てることができる法人(いわゆる黒字法人)にしかないように思います。
 まだ,私もお客様全体の被害の程度を把握できておりませんが,被災された法人の状況を拝見する限り,法定外の引当金を計上するまでもなく,相当な損失を計上せざるをえない状況です。

 おっしゃるとおり,本通達は,あくまで法人税の納税猶予のための措置ですから,被災による損害が甚大であれば,こうした通達を待つまでもなく,法人税を納付する必要がないわけで,この通達の適用を受けるのは,地元の企業というよりは,支店や事業所の一部が被災地にある,比較的大きな規模の企業ということになるかもしれません。
 そうした意味での実効性については,国税庁は,ぜひ,実績(規定の適用を受けた法人数,損金算入額など)を公表して,実証してもらいたいと思います。

 最後に,通達前文の気になる表現をひとつ。
「なお,この通達による取扱いについては,個々の法人の実情に応じ,懇切かつ具体的に指導するよう万全を期するとこととされたい。」

 それは,「この通達」に限ったことじゃないと思うのですが。

【税理士 米澤 勝】