[刑事事件]キセル乗車と電子計算機使用詐欺罪

 判例タイムズ2013年3月号に,キセル乗車を繰り返していた被告人に刑法246条の2(電子計算機使用詐欺)を適用して,懲役1年執行猶予3年の有罪判決が出された事件の第1審判決が出ていました。自動改札機を利用したキセル乗車に刑法246条の2を適用した例は,全国で初めてだそうです。

 手口はこうです。
 往路は,乗車駅(鶯谷駅)で130円の乗車券を買って自動改札機で入場し,下車駅である宇都宮駅では,同駅を挟む雀宮駅−岡本駅間の回数券を使って自動改札機で出場します。このとき,回数券には入場記録がないので,本来であれば自動改札機は開扉しませんが,岡本駅が自動改札機未設置駅ということで,同駅を含む区間の回数券については,入場記録がなくても自動改札機は開扉するシステムになっているようです。これで得た不法利益が1,530円相当です。ついで復路ですが,宇都宮駅で180円の乗車券を買い。自動改札機を通過して入場し,下車駅である赤羽駅では,往路で使用した入場記録のある鶯谷駅からの乗車券を精算して,精算券を自動改札機に投入して出場し,1,410円の不法な利益を得たということです。

 東京地裁は,入場情報がない回数券を自動改札機に投入して有効区間内の自動改札機未設置駅(岡本駅)から入場したと読み取らせたこと,実際の乗車駅(宇都宮駅)と異なる入場情報の乗車券を自動精算機に投入して鶯谷駅から入場したと読み取らせたことは,電子計算機に向けて虚偽の電磁的記録をその事務処理の用に供して,財産上の利益を得ることを構成要件とする刑法246条の2の成立を認めました。

 判決を読んでいて,どうにも不思議だったのは,「なぜ,被告人の行為が露見したのか」という点,判決の中の「未決拘留日数中120日を刑に算入する」という,未決拘留日数の長さでした。
 上述のとおり,自動改札機・精算機を利用したキセル乗車ですから,尾行されてでもいない限り,キセル乗車の事実がばれるはずはないように思えます。そのうえ,不法の利益は1往復のキセル乗車で約3千円,2人の被告人を合わせても総額2万円余りにすぎないにもかかわらず,未決拘留日数の算入が120日というのは,いかにも勾留期間が長いように思います。

 過去の記事を探したところ,いくつかの報道が見つかりました。逮捕時の報道(2011年12月18日)によると,逮捕されたのは革労協の活動家であり,逮捕した警視庁公安部によって行動が監視されていたらしいこと,被告人は黙秘を貫いていたらしいことがわかりました。
 こうした事実の一部は,判決のなかで弁護人が公訴棄却を求める主張にも表れていました。

 捜査機関は,特定の思想信条を有する被告人らを追尾するなど,その行動を監視しながら,本件各犯行に及ぶことを放置し,これによりその証拠を収集するとともに,被害額を高額化させて起訴価値を高めた上,被告人らを起訴するに至っており,このような公訴提起の手続は違法・無効である。
 残念ながら,弁護側のこうした訴えは,裁判所に「検察官に訴追裁量権の逸脱・濫用があったとはいえず,本件公訴提起が適法であることは明らか」であるとされて,採用されませんでした。

 ということで,自動改札機を利用したキセル乗車には詐欺罪が成立しないとされているところ,本件では,電計算機利用詐欺罪が成立するとして,有罪判決が出されました。
 キセル乗車に使用した乗車券を自動改札機や精算機から回収して,指紋を照合するなどの証拠収集が行われたのでしょうか。気になります。

【税理士 米澤 勝】