[税務争訟]武富士元専務贈与税事件最高裁判決

 最高裁判所に問い合わせたら,傍聴券は40枚,先着順ということで,少し早目に永田町へ向かいました。筆者は18番目,最高裁での傍聴は4回目ですが,傍聴券を配られたのは初めてです。
第2小法廷。2分間のTV撮影が終わり,判決が言い渡されます。

 主文 原判決を取り消す。
 被上告人の上告を却下する。
 控訴費用および上告費用は被上告人の負担とする。

 須藤正彦裁判長の発言はこれだけです。せっかくこれだけの傍聴人が集まったのだから,判決理由の要約くらい,読み上げてほしかったところですが,そういうサービスはありません。ここで,筆者を含めた傍聴人のほとんどは退廷しました。

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110218155435.pdf

 判決そのものは想定通りであり,とくに改めてコメントすることもありませんが,税務訴訟においては往々にして見られる,「1審納税者勝訴,控訴審で敗訴,上告審で逆転」というパターンに,本件も該当することになりました。もちろん,これ以外の判決パターンもあるのですが,同じ証拠物でありながら,高裁では課税庁側に有利な判決が出ることが多いのではないかと感じている人が多いのではないでしょうか(統計をとったわけではありませんが,筆者もそう思っています)。

 判決を聞いた後,知り合いの新聞記者と話をする機会があり,その中で,筆者は「日本国籍を有する者が取得した財産に課税する」とでも改正しない限り,海外へ生活の本拠を移したうえで贈与税の課税回避を行う芽は摘めないのではないかと,主張しました。現行のように年限を切っただけでは,租税回避スキームは根絶できないと考えます。
 須藤裁判長の補足意見を読みますと,武井俊樹さんのことを「日本国籍を有し,かつ国内に住所を有していた者が暫定的に国外に滞在した」と評しており,日本国籍に言及しておられる点は,もしや筆者と似た意見をお持ちなのではないかと勝手に思ってしまいました。住所については,国内と国外の両方に生活の本拠が認められる場合もあり得るとしながらも,判例上住所は単一であり,住所が複数あり得るとはいえないことから,香港の方がより生活の実体があったとする結論を導いておられます。
 今後,住所は複数あってもおかしくないという考え方が,相続税法に採り入れられれば,本件のような課税回避スキームはなくなるわけですが,それよりも日本国籍を有する者に課税すると決めてしまった方がシンプルではないか,と思います。

 さて,武井俊樹さんは巨額の還付を受けることになったわけですが,受け取る還付金のうち,還付加算金は,所得税法上「雑所得」に区分され,課税されることとなります。還付加算金が400億円くらいとして,所得税が40%,住民税が10%課されますので,半分は,国または東京都に納税することになるわけです。もっとも,裁判に要した費用は必要経費として認められるでしょうから,弁護士費用などを差し引いた残りが課税の対象になります。通常,租税訴訟は「成功報酬」で代理人を受任することが多いと言われており,本件もそうだろうと類推する次第ですが,この巨額な弁護士費用を必要経費として否認するなどという意趣返しはまさかしないでしょうし。

 武井俊樹さんに還付される税金について,筆者は以前から,過払金被害者の方々への賠償に充てるべきだと思ってきましたが,「武富士の責任を追及する全国会議」も同じ主張をしておられます。
http://blog.livedoor.jp/takehuji/archives/2462257.html
 取締役としての責任追及はもっともですが,最も重い責任を追及されるべき元会長は既に鬼籍に入っており,他の取締役の責任がどう判断されるのか,難しいところですし,時間もかかります。それよりも,「全国会議」は直ちに特定非営利活動法人の認定を受けて,寄附をするように武井俊樹さんと交渉する方がいいのではないでしょうか(すでに交渉しているのかもしれませんが)。還付加算金に対する所得税の申告上も,特定寄附金の合計額と所得金額の100分の40とのいずれか少ない金額から2千円を控除した金額が所得控除として差し引かれますので,所得税の納付が少なくて済むというメリットもあるのですが(これはこれで課税庁は不満かもしれませんが)。

【税理士 米澤勝】