[税務争訟]武富士元専務贈与税更正処分取消訴訟上告審口頭弁論


 本事件については,最高裁判所で弁論期日が指定されたのを受けて,当ブログでもコメントを載せさせていただきましたが,本日,期日を迎え,傍聴に出向きました。
↓ 過去のコメント
 http://d.hatena.ne.jp/takanawa2009/20101115/1289787472

 他の裁判の判決言渡しが2件,弁論が1件行われた後,いったん閉廷。裁判長が変わって,再開です。
 上告人,被上告人による上告受理申立書や答弁書などの陳述が擬制された後,須藤裁判長に促されて,上告人の代理人弁護士(たぶん,錦戸先生と名乗られたと思います)が,弁論に立ちます。せっかく傍聴に来たのに,「陳述します。」という言葉だけ聞いて帰るのではつまらないと思っておりましたが,内心,拍手です。
「3年前の原審判決を初めて読んだとき,不自然で腑に落ちない印象を受けました」
と話しはじめた代理人は,落ち着いた声で,原判決の不備を指摘していきます。住所の法令解釈と事実認定に歪みがある。租税回避目的にこだわるあまり客観的事実と乖離した判断がなされている。判決の中で引用されている判例が意図的に省略されて,歪められて形で用いられている。
 それから,第1審判決を引用して,
「被告の主張は、原告の租税回避意思を過度に強調したものであって、客観的な事実に合致するものであるとはいい難い」
とする結論を述べます。
 次いで,これまでの民事事件において形成されてきた「生活の本拠」「住所」といった概念の解釈を,この判決で覆すことの是非を問います。
 最後に,被上告人の代理人が陳述を擬制した「答弁書」の内容を批判します。被上告人が租税回避行為に対して強い嫌悪感を抱いてるのは仕方ないとしても,平成12年度政府税制調査会答申ではすでに本件と同じような租税回避スキームに言及されていることを採りあげ,こうした制度は世間的に認知されていたものであること,答弁書で引用されている判決は意図的に短縮して判示事項が歪められ,誤導のおそれがあること,憲法84条から導かれる租税法律主義に依らずに個人的制裁の性格の強い課税を強行することこそ,課税庁の恣意的な運用であり。より課税の公平といった国民の信頼を裏切るものであることなどを主張して,上告人の代理人の弁論は終了しました。

 国側の指定代理人の補足弁論は,おそらく,答弁書の内容を簡潔にまとめたものであったのでしょうが,新規性はなく,また,上告人代理人の弁論に対する反論もありませんでした。まぁ,これは,上告人側が被上告人の答弁書を読み,その反論を事前に検討できるのに対して,被上告人は,その場での弁論に対する反論を考えなければならず,指定代理人にそこまでの権限が与えられているとも思えないことから,被上告人の代理人が不利であることはしょうがないこととはいえ,少し気の毒だったかもしれません。

 事前に予想されていたとおり,最高裁において新たな事実や証拠が出されたわけではなさそうですが,にもかかわらず,本日弁論を開いたということからすると,国・課税庁側を勝たせた控訴審の判断は何らかの覆ることになりそうです。
 それにしても,上告人代理人の弁論は,実に分かりやすく,上告受理申立理由書を読んでいない小職の耳にも,上告人の主張がすんなりと理解できました。筆者が尊敬する神戸女学院大学内田樹教授の表現を借用すれば,その弁論は,「満腔の賞賛」に値するものであったと思います。

 注目の判決言渡し期日は2月18日(金)です。

↓詳しいニュースはこちら
 http://news.ameba.jp/20110121-67/

【税理士 米澤勝】