[税制改正]週刊ダイヤモンド1月22号「特集 相続が大変だ」

 昨年12月16日に閣議決定された『平成23年度税制改正大綱』の評判はあまり良くないようです。法人税率を引き下げて,不足する税収を所得税の課税強化で補ったり,相続税基礎控除額が大幅に縮減されたり,もっぱら,個人に対する課税強化に対する不安や不満が報道されています。本日話題にさせていただいた週刊ダイヤモンド誌上でも,「取りやすいところから取る」姿勢にますます拍車がかかるはず,と表現されています。
 まだ,大綱が出されただけで,具体的にどのように法律が改正されるか不明な点が多い中で大騒ぎするのもどうかなとも思いますが,今週号の「週刊ダイヤモンド」の特集「相続が大変だ」を参考に,相続税の改正内容を検討したいと思います。
 
 何よりも一番影響が大きいのは,相続に係る基礎控除額の大幅減額です。
相続人が配偶者と子ども2人の合計3人の場合,これまで,
  5,000万円+1,000万円×3人=8,000万円
とされてきた基礎控除額は,平成23年度改正で,
  3,000万円+600万円×3人=4,800万円
まで,減額されます。その減額割合は40%。
 税制改正大綱発表前に公表されていた資産課税に関する資料(平成22年11月25日)では,相続税基礎控除額見直しに係る考え方として,
  その1 3,000万円+600万円×相続人数
  その2 3,500万円+700万円×相続人数
という両論が併記されていて,最終的には政府税制調査会に判断を委ねるという体裁になっており,筆者は激変緩和措置としても,とりあえず,平成23年度は「その2」で改正をしておいて,平成25年ころから,「その1」へと移行することを附則で決めておく,という判断もありではないかと思っていたのですが,一気に厳しい方を選択するとは,少し意外でした。
 この改正に加えて,生命保険金の非課税金額の計算対象である相続人の数に「生計を一にしていた者に限る」として要件厳しくしたことから,ダイヤモンドの記事によれば,課税対象となる死亡者の割合は4%から6%へ増加し,納税対象者数は,約6万人増えて17万5千人になるとのことです。

 筆者は,今回の相続税の改正について,ターゲットは大都市近郊の持ち家にも住む団塊の世代ではないかと考えています。団塊の世代の方々の多くは,すでに定年退職等で退職金を受け取り,住宅ローンの支払いは終わっているものの,まだまだ元気で働いていらっしゃいます。一方,子どもたちもそろそろ独立して,夫婦二人だけの生活という方も多いようです。平成22年度改正における「小規模宅地の評価の特例適用の厳格化」も,本年税制改正大綱における「基礎控除額の大幅縮減」,「生命保険金の非課税適用対象相続人の見直し」などは,すべて,こうした団塊の世代増税としてのしかかってくるのではないか。そう考える次第です。
 たとえば,同居していない子供が相続した宅地等は,評価の特例(評価額の80%減額)の対象にはなりません。基礎控除額の大幅縮減は,団塊の世代狙い撃ちの税制改正とはいえませんが,それでも,相続人が3人の場合,課税財産が5千万円程度から課税の対象と考えると,都市部に住居を有し,そのローンの支払いも終わっている人たち,すなわち,団塊の世代がその中心になることは間違いないと思います。生命保険金の非課税額を計算する相続の要件に「生計を一にしていた者」を加えたことも,同じく,子どもたちが独立する年代層(=団塊の世代)を狙い撃ちにしたものではないでしょうか。

 今回の週刊ダイヤモンドの特集は,全般に良くまとめられていると感じました。同誌が言うように「周到な準備が差を分ける」のは間違いないところですので,大都市近郊の持ち家に住むサラリーマンの方々も,相続税をわがこととして考える時代になったと思います。そういう意味では,特集の「書き込み式シート」は使ってみる価値がありそうです。

 同誌が触れていなかったことで気になったのは,相続税の配偶者に対する軽減規定や小規模宅地の評価の特例の規定の適用を受けるためには,相続税の申告書を期限内(相続開始から10カ月後)に提出することが求められている点について,説明がなかったことです。軽減規定,特例の規定の適用があるから大丈夫とばかりに,申告書を提出していないと,税務調査の結果,無申告加算税や延滞税などのペナルティの対象となることも考えられますので,やはり,一度,税理士にご相談ください,というところでしょうか。

 税制改正大綱どおりに相続税法が改正されるかどうかは,今後の国会審議の行方にかかっているわけですが,残された遺族の方たちに,「3月中に死んでくれて助かった」とか,「どうして4月1日まで生きていたのか」と思わせるよう税制改正はよくないんじゃないかと,法律改正から施行までの期間をどのくらいにするのか,気になるところです。

【税理士 米澤勝】