[セミナー]企業の信用を守るための内部通報制度と内部告発対策

昨日(17日),銀座で行われた山口利昭弁護士のセミナーを聴講しました。タイトルは,『企業の信用を守るための内部通報制度と内部告発対策』というもので,山口先生が7月に出版された『内部通報・内部告発――その光と影』という書籍の出版記念講演ということでした。山口先生が,本やブログでは書けないようなことを大いにおしゃべりになるのではないかという期待を抱いたのは筆者だけではなかったようで,会場は80名くらいの聴衆で満席でした。

なお,同著については,当ブログでもコメントしております。
http://d.hatena.ne.jp/takanawa2009/20100902

興味深いお話が満載の3時間だったのですが,中でも,「パワーハラスメントに係る第三者通報は,100%女性である」という,経験に裏打ちされた指摘が,興味深かったです。いじめられていてかわいそう,見てられない・聞いていられない,といった気持から通報窓口に連絡を入れる女性の優しさと,その一方,単に職場環境を変えるだけでは納得せず,その上司の処分を強行に求める厳しさは,確かに女性ならではのものかもしれません。とはいえ,パワーハラスメントに関する処分はひじょうに難しいわけで,暴力行為でも目撃されていればともかく,「説教」なのか「いじめ」なのかは,当然,主張が対立するはずです。会社としては,そこでとりあえず両者の職場環境を変えて一件落着としたいところなのですが,通報者は,「処分をしないと同じことを繰り返す」と主張されるそうです。なお,パワーハラスメントの定義は,裁判上では,「組織,上司が職務権限を使って,職務とは関係のない事項あるいは職務上であっても適正な範囲を越えて,部下に対し,有形無形の圧力を加え,受ける側がそれを精神的な負担と感じるときに成立するもの」(2008年10月21日東京地裁判決)とされていますが,「適正な範囲」「有形無形の圧力」「受ける側の精神的負担」など,いやはや立証は難しそうです。

もう一つ,通報者に対する会社側の報復的人事について,裁判上の立証責任の転換を課題として挙げておられたところにも興味を持ちました。つまり,これまでは,不当な人事異動を命じられた通報者が,裁判の場で,会社の人事権行使が不当であることを立証しなければならなかったため,裁判で勝つのは難しかったわけですが,これを,「人事権行使の合理性・正当性については,内部通報から一定の近接した時間内にものであれば,会社側が立証責任を負う」ようにすべきではないかと,説明されていました。

レジュメでは,他にも,「第三者委員会」に関する考察があって,どんな話が出るのかと期待していたのですが,こちらは残念ながら時間切れで省略されてしまいました。また,別の機会にでも,お話をうかがえればと思っています。

【税理士 米澤勝】