[税制改正]納税環境整備PT報告書

去る11月25日,税制調査委員会納税環境整備プロジェクトチーム(PT)は,それまでの審議結果を「報告書」として公表しました。内容的には,昨年12月に公表された『税制改正大綱』として閣議決定された項目が,専門家委員会における納税環境整備小委員会の検討を経て,より具体的に,議論されたものです。税制改正大綱における項目の中からは,「PTの設置」,平成22年度改正で実現が図られた「罰則の適正化」,議論が進んでいないであろう「歳入庁の設置」の3点が抜け,「納税者の権利保護」に,大きな紙幅が割かれているのが目につきます。

目次では,
1. 番号制度
2. 租税教育
3. 税務調査手続
4. 更正の請求
5. 理由附記
6. 納税者権利憲章(仮称)策定の方向性
7. 国税不服審判所の改革
の7項目が挙がっていますが,納税者権利憲章の策定が,いわば「総論」で,3,4,5,7の各項目は,その「各論」的な意味合いであり,まだまだ議論が煮詰まっていない番号制度や,反対する余地もない租税教育の必要性などは,付け足しのようなもので,納税環境の整備にとっての本丸は,納税者権利憲章の策定と,それに伴う「国税通則法」の抜本的改正にあるといえます。
報告書→ http://www.cao.go.jp/zei-cho/gijiroku/pdf/22zen13kai6.pdf

当ブログでも,9月29日に開催された租税訴訟学会における研究会の内容を紹介しながら,納税環境整備について考えました。
http://d.hatena.ne.jp/takanawa2009/20100929/1285744860

その中でも触れましたが,行政手続法で第1条に挙げられている「国民の権利利益の保護に資すること」という目的と,国税通則法第1条の「国民の納税義務の適正かつ円滑な履行に資すること」という目的のギャップをいかに埋めるか,つまり,「納税者の権利利益の保護に資すること」を目的とする法律へ,国税通則法を抜本的に改正するという試みが,この報告書を読む限り,現実のものとなりそうです。
明文規定がなかった税務調査手続を法律に規定し,納税者に著しく不利だった税額の減少を求める更正の請求期間を延長し,青色申告制度の特典とされてきた課税庁の処分に際する理由の附記を行う範囲を拡大し,さらに,国税不服審判所を「所管も含めた組織のあり方」までも見直しの対象とするという,今回の報告は,かなり踏み込んだものであると評価できそうです。

公表から6日後の12月1日,東京税理士会支部では,内閣府上席政策調査員として,行政刷新会議事務局と大臣官房調整課で活躍中の青木丈税理士を迎えて,『新政権下の税制改正手続』と題する,ひじょうにタイムリーな研修会がありました。
青木税理士には,事務局として政府税調の意思決定プロセスを見てこられた経験から,実に有意義な話をお聞かせいただきました。何度も「意見にわたる部分は私見である」ことを強調されておりましたので,官僚としてではなく,税理士としてコメントされた部分を引用することは避けたいと思いますが,政治主導の税制改正に反対する財務官僚のしたたかさをうかがわせるエピソードなど,内部にいる方ならではの指摘であったかと思いました。
また,昭和37年の制定以来ほとんど改正されてこなかった「国税通則法」が抜本的に改正されようとしているのに,ほとんどマスコミ報道がされないことについて青木税理士は,「ひじょうにがっかりした」と話しておられましたが,筆者も不可解に思っているところです。

前にも述べましたが,納税者権利憲章の制定について,筆者も大いに賛成しており,また,今回の報告書の内容についても,概ね,納税者の権利を保護する方向で議論が進んでいるようで,いいことだと考えております。
一方,納税者番号制度については,まだまだどんな制度を目指しているのがよく分からない状況ですので,今後の展開に注目したいと考えております。
なお,今年度の『税制改正大綱』の公表は,青木税理士によると,「昨年(12月22日)より早期を目指してはいるものの,ほぼ同じ時期になるのではないか。ただ,天皇誕生日,クリスマス,仕事納めなどの関係で,後ろにずれ込むことは考えづらい」とのことで,所得税相続税もかなりの改正が報道されているだけに,気になるところです。

(米澤勝)