第2回内部統制報告制度ラウンドテーブル

昨日(11月25日),日本内部統制研究学会が主催する「第2回内部統制報告制度ラウンドテーブル」を傍聴してきました。非学会員である筆者の傍聴費用は5千円。ちょっと高いかなと思いながら,こうした機会はなかなか得られるものではないと気を取り直し,参加した次第です。
内部統制報告制度も3年目を迎え,金融庁企業会計審議会内部統制部会における制度見直しの議論や,本年6月に閣議決定された『新成長戦略』においては「中堅・中小企業に係る会計基準・内部統制報告制度の見直し」が明記されるなど,主に制度の簡素化についての議論がされることが多いようです。
そうした中,本ラウンドテーブルでは,内部統制を推進する企業関係者,内部統制監査を行う監査法人関係者,市場関係者といったさまざまな立場の報告者が内部統制報告制度についての意見を発表し,これに金融庁経済産業省公認会計士協会,監査役協会,内部監査協会,内部統制研究学会の各代表がオブザーバーとして加わることによって,「内部統制報告制度の実務に関連する当事者を一堂に会して」「今後予想される企業会計審議会内部統制部会その他での議論に資するべく」「内部統制報告制度についての『総括と提言』をまとめる」ために開催が企画されたようです(ラウンドテーブルの議長である青山学院の八田教授による開催の趣旨より,一部引用)。
議長より各発表者にあらかじめ意見を求められた項目は以下の4点でした。
(1) 内部統制報告の現状
(2) 内部統制報告制度の見直し
(3) 内部統制の現状
(4) 内部統制の展望
報告者は12名。一人5分程度という短い時間で意見を述べるのは,傍聴していても難しいことだと感じました。論点はいろいろあるわけですが,内部統制報告制度が,「重要な欠陥」を開示しないで済ますことを主眼とした形式的なものになってしまっていること,結果的に企業活動の効率化にはまったく寄与していないこと,投資家の意思決定に影響を与えるものとなっていないことなど,立場の違う参加者のうち複数の方が指摘された事項については,制度導入前からある程度懸念されていたことが現実になったというべきでしょう。一方,内部統制報告制度は,まったく新しい制度であるにもかかわらず,比較的スムースに導入がされ,現在では,内部統制報告制度対応のための業務は特別なものではなくなっているのも事実のようです。そうした意味では,3年目にして,すでに企業活動に根づいたということも言えるかと思います。
報告やその後のディスカッションを聞いていて,筆者が昨年まで所属していた企業グループにおける内部統制の取組みを思い出し,「そうそう」とうなずく場面が多くありました。この制度の導入時期に,実務を経験できたことは,ひじょうに幸運であったと,あらためて感じました。

金融庁企業会計審議会内部統制部会における見直し案は以下の4点に集約されています。
(1) 企業の創意工夫を活かした監査人の対応の確保
(2) 中堅・中小上場企業向けの簡素な内部統制の取組みの「事例集」の作成
(3) 内部統制の柔軟な運用手法を確立するための見直し
(4) 「重要な欠陥」の用語の見直し
制度の運用面での柔軟性や簡素化,それらに対する監査人の理解といったことが採り上げられているようですが,どうも具体的に何を見直すのか,判然としません。唯一,「重要な欠陥」の用語を,「開示すべき重要な不備」又は「重要な要改善事項」と見直すことを検討するとした第4項のみが,具体性をもって提示されているといった印象です。
個人的には,運用面で見直しは必要だと考えます。ただ,それは「簡素化」に向けたものではなく,企業の創意工夫に対する監査人の理解(というよりは,画一的な内部統制監査手法の見直し,というべきですが)を求める第1項を中心に,議論が進むことを期待したいと思います。中堅・中小企業向けの制度簡素化については,内部統制報告制度そのものをますます形骸化させるおそれがあると考えますので,筆者としては否定的です。本制度は,あくまで「投資家の保護」を目的としているものであって,昨今の新興市場上場企業の不正事例からは,むしろ,中堅・中小の上場企業こそ,内部統制を適切に運用することが必要であると考えます。もちろん,そこでも,運用面の柔軟さは担保されるべきで,外部監査における有効性評価時に,監査人がその企業の実態を理解し,その企業に見合った内部統制システムの運用について指導的機能を発現することで,企業の負担は十分軽減できるのではないでしょうか。
また,内部統制報告が大変だから上場しない,内部統制報告のコスト負担に耐えられずに上場を廃止するといった企業が増えることは,証券市場の活性化を阻害するという意見は,論点がずれているのではないかと感じました。内部統制報告制度のコスト負担に耐えられないような企業が上場すべきではないというのが投資家の気持ではないかと思いますし,IPO企業が減ったところで損失を被るのは取引所と証券会社(監査法人も含まれますか)であって,「簡素化した内部統制報告制度」により救済された企業が,結果的に「重要な欠陥」の顕在化により上場廃止や破綻に追い込まれたときに損失を被るのが投資家であることを考えれば,上記の意見は,投資家サイドの意向を無視したものといえるのではないでしょうか。

コメントにはなかったのですが,青山学院の町田教授の報告資料にあった「一般に,内部統制報告制度の導入による効果は,直接的に金額で示されるものではないため,また,内部統制を整備して良かったという声をわざわざ上げる企業は少ないため,批判の声が大きく喧伝される傾向もある」という指摘は,首肯できるものでした。また,議長の八田教授もその立場を離れて力説しておりましたが,内部統制報告制度の挿入により,少なくとも「循環取引」を抑止し,または早期に発見できる効果は,十分に企業にも理解されているのではないでしょうか。
今回のラウンドテーブルが『総括と提言』をまとめられたかどうかは,金融庁企業会計審議会内部統制部会における議論の結果がどのような形でまとめられるかに負うところが大きいとは思いますが,休憩をはさんで4時間にわたった報告とディスカッションは,傍聴しがいのあるものだったと感じました。

(米澤勝)