「税を考える週間」シンポジウム&特別講演会

 税を考える週間自体はすでに終了しているのですが,一昨日,東京税理士会麹町支部主催の「税を考える週間」シンポジウム&特別講演会に出席してきました。本ブログでも取り上げさせていただいた『国税記者』の著者である田中周紀氏が,特別講演会にご登壇いただくということで,非常に楽しみにしていたイベントです。
↓ 本ブログの書籍紹介記事
http://d.hatena.ne.jp/takanawa2009/20120314/1331693389

 第一部は,「税務関係団体の役割」と題したシンポジウムでした。冒頭,麹町税務署の中山茂郎所長から,「税を考える週間」の沿革について,詳しいご説明がありました。
 昭和24年6月に設置された国税庁は,税に対する納税者の不満を聞くために,昭和29年から毎年11月を「納税者の声を聞く月間」と定めたそうです(後に旬間になります)。昭和49年になってこれが「税を知る週間」と改称され,さらに,平成16年からは,「税を考える週間」として現在に至っているとのことです。また「週間」と名付けているものの,実際には11月いっぱい,いろんな行事が行われているとのことでした(先週出席した税務大学校公開講座も,その一環です)。
 シンポジウムでは,税金に親しんでもらうための各団体の取り組みが紹介されました。法人会青色申告会,間税会などがさまざまなイベントを企画し,そこに税務署や税理士会支部も参加しているとのことで,筆者が所属する支部よりもたいへん盛んな様子に驚きました。

 約10分間の休憩をはさんで,「トッカン&マルサの世界――国税記者の見た巨額脱税事件の実録」と題された,田中周紀さんの講演が始まりました。冒頭,一般の人には,「国税庁国税局の違いもわからない」ことから,TVドラマの考証について,苦労話が続きます。報道の現場でも,脱税事件の家宅捜査が生中継されるのは,検察単独か検察と査察の合同捜査であって,査察だけの場合は一切情報が漏れることはなく,仮に査察情報をつかんでいたとしてもそれを報道してしまえば,「出入り禁止」処分が待っているそうです。「査察はあくまで,強制調査であり,逮捕権限はない」とか,「査察が入るのは,火曜日から木曜日に限定されている」といったトリビアルな話題が続きます。
 ほとんど当局からのリークが期待できない状況で,「どうやってネタをキャッチし,どうやって内容を詰めるか」についてのコメントに,国税記者の苦労がうかがえました。たとえば,「大手町(東京国税局)の駐車場に止まっている車のナンバーを洗ったり」,「国税局ロビーで来訪者を張ったり」,中には,「当局が知らない事案を持ち込んで独占取材をもくろむ」記者までいるそうです。その一方,若い女性記者が配属されると,あっさり重要情報をリークしてしまう国税幹部もいるとのことで,どこの世界も似たようなものだなという印象を持ちました。
 最後に,取り上げたのは,著作の中でも注目していた「クレディ・スイス社員によるストックオプション脱税事件」でした。これまで,査察から検察に送った事件は例外なく起訴され,有罪判決が下されてきたのですが,本件の被告人である元クレディ・スイス証券部長の八田隆氏の公判では,もしかしたら,査察事件初の無罪判決が出るかもしれないということで,来年1月ころに予定されている判決を注目したいということでした。本事件については,悪質性という点においても,査察が手がける必要があるのかどうか疑問を感じる事件ですが,300人ともいわれる申告漏れがあった社員の中で,八田氏だけが告訴されたというのも,ひじょうに疑問を感じる事件です。
 いただいた講演のレジュメには,近刊予定として「飛ばしの系譜(課題)」というタイトルがありました。オリンパス事件を想起させるもので,どんな内容になるのか,期待したいところです。

【税理士 米澤 勝】