[話題]税務大学校公開講座

 11月11日から17日は「税を考える週間」ということで,昨日,毎年この時期に行われる税務大学校和光校舎の公開講座を,13日に受講してきました。
国税庁HP「税を考える週間」
→ http://www.nta.go.jp/kohyo/katsudou/week/index.htm

 開講の挨拶に立たれたのは教頭の肥後治樹先生。かつて筑波大学大学院で,税理士向けに補佐人講座をご担当されていたとき,国税通則法をご講義いただきました。当時,見事なお髭をたくわえられていたのですが,国税庁に戻った際にきれいに剃られたのでしょうか,今日はお髭はありません。ただ,話し方はまったく変わっていなくて懐かしく思いました。
 初日の講座は,横浜国立大学大学院の岩崎政明教授による『これからの不動産税制――21世紀型不動産税制への改革の問題と方策』と國學院大学法学部の酒井克彦教授による『租税法条文の読み方――文理解釈か? 趣旨解釈か?』という,豪華な2本立てです。

 岩崎教授は,「傷だらけになってしまったこの社会をどうすればいいか」という問題提起を鶴田浩二の「傷だらけの人生」の冒頭を語りながら,講義を始められました。そして,今日の講義の目的を「国家財政の建て直しを税制,とくに不動産税制から考える」と述べられ,バブル崩壊後の不動産税制の問題点を,どのように解決するかという視点で,いくつかの提言をご説明いただきました。主な 提言は,
不動産に対する譲渡所得税について,譲渡損失を損益通算できる制度の復活相続税は,遺産税方式への転換不動産取得税の廃止
土地の売買契約に係る印紙税,登記に係る登録免許税を定額化
(取引価格を根拠として課税するという方式をやめる)
などでした。とりわけ,譲渡損失の損益通算制度の復活などは,筆者も大いに賛成するものです。いずれも,実現は難しそうですが,「安定的で希望の持てる住環境を実現するための税負担」はどうあるべきかについての,岩崎教授の考え方はよく理解できました。

 続いて,酒井教授の登壇です。
 ここ数年,酒井教授の講義を年に2〜3回拝聴する機会に恵まれておりまして,その都度,刺激をいただいています。
 文理解釈と趣旨解釈(目的論的解釈)を語るにあたって,教授が引き合いに出されたのは,毎度おなじみの世田谷線松陰神社前駅そばの書店のたとえ話です。書店は,世田谷線の電車を待つ学生が立ち読みをしないように,「立読禁止」の貼紙があります。学生のAくんは,書棚の陰に隠れて立ち読みをします。Bくんは床に座って,本を読みます。Aくんの行為は法律違反,いわば脱税ですが,Bくんの行為は条文上,法律違反ではありません。ただ,この行為は,書店主がなぜ「立読禁止」の貼紙をしたかということ(法の趣旨)からみれば,明らかに違法です。つまり,趣旨解釈によって,Bくんの行為も脱税であると認定しなくては,法律が生かされないことになります。
 このたとえ話は,隠ぺい・仮装や,租税回避行為がテーマのときにも,引き合いに出されるくらいわかりやすく,一度,話題の書店に行ってみたいといつも思うのですが,まだ果たせておりません。今回は,この貼紙に(レジ回りは除く)という解除条件まで付いたのですが,どこまでが事実で,どこからが教授の創作なのかを検証するためにも,行く必要が高まってまいりました。
 ひととおり解釈論を講義された締め括りは,文理解釈で納税者を勝たせた「ホステス報酬に係る源泉徴収税額の計算において基礎控除額の算定方法が争われた訴訟」の最高裁判決と,目的論的解釈で課税庁を勝たせた「保険金の一時所得の計算において会社が負担した保険料は控除できるかが争われた訴訟」の最高裁判決のふたつです。
 どちらも,さまざまな判例批評が書かれており,課税実務に与える影響が大きな判決ですが,酒井教授は,後者の判決についても,目的論的解釈だけで判断しているのではなく,文理解釈を重要視していることを指摘して,「文理解釈が優先されること」を強調して,90分の講義を終えられました。酒井教授の講義では複数の判決を対比して論じることが多いのですが,取り上げる判決の対比の妙と言いますか,争点に対する視点やアプローチの違いに着目された解説は,いつも新しい知見に触れさせていただけるので,感謝しています。

 実は,明後日にも,また酒井教授のご講義を拝聴する機会をいただいておりまして,楽しみにしているところです。

【税理士 米澤 勝】