[書籍等]税理2014年5月号に寄稿しました(発売中です)。

税理 2014年 05月号 [雑誌]

税理 2014年 05月号 [雑誌]

 編集部からご依頼をいただき,「消費税実務」という連載コーナーに,『請負契約における仕入税額控除の時期をめぐる判断』というタイトルで寄稿しました。
 ちょうど,消費税率が引き上げられる直前が締切だったこともあって,経過措置なども,執筆時点で判明している内容をおりこんでいます。
 消費税の計算において,仕入税額控除が問題となる事例の多くは,その計上時期を収益の計上時期と一致させなければならないと思いがちなところにあるのではないかと思っています。会計や法人税における「費用収益対応の原則」があまりにも身に沁みつきすぎて,消費税でもそれを遵守することによって,仕入税額控除の時期を誤ってしまうのではないか。そんな論点から,原稿をまとめました。

 さて,筆者の原稿はともかく,税理2014年5月号の特集は,「飲食費の支出と税務の分岐点」と題されて,平成26年度改正で大きく変わった交際費課税について,60ページ以上を割いています。ちょうど,明日予定しているセミナーでもとりあげようと思っていた話題でもあり,さっそく,通読いたしました。
 社内飲食費の適用範囲の詳細については,まだまだ個別事例の積み重ねが必要であり,国税庁からの積極的な適用可否の公開が待たれるところですが,大いに参考になりました。
 なお,月初に発売された「税務弘報5月号」の特集のpart 1もまた,「交際費特例を使いこなす着眼点」ということで,平成26年度税制改正で実現した交際費課税の緩和をどのように実務に生かすか,みなさんの注目点は一致しているようです。

【税理士 米澤 勝】

[税制]消費税率引き上げの影響

 昨日から今朝にかけてのニュースは,17年ぶりの消費税率引き上げの影響を報じるニュースばかりでした。対応が間に合わず,開店時間の繰り下げや臨時休業を余儀なくされたスーパーマーケットもあったようです。
↓たとえば,首都圏の食品スーパーの記事。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDZ0103R_R00C14A4EB1000/

 それでも,比較的大手はまだ影響は少ないようですが,中小事業者の中には,消費税率引き上げの影響で廃業を選ぶスーパーが出ていたことが報じられました。
 ↓ たとえば産経新聞の記事。
http://sankei.jp.msn.com/economy/news/140402/fnc14040208370002-n1.htm

 新潟市で2店舗のスーパーを経営する河治屋は,3月19日に新潟地裁に破産を申請し翌20日に破産開始決定を受けていたそうです。
自己破産申請の理由は,東京商工リサーチによると,もともと資金繰りが悪化していたところ,
電気料金の値上げに苦しんでいたうえ、使用するレジが旧式なため4月以降の消費税率変更に際し対応できず、新規の設備投資もできない状況に陥っていた。
という状況で,「消費増税関連で初の倒産」となったということです。
 ↓ 東京商工リサーチの記事。
http://www.tsr-net.co.jp/news/tsr/20140401_03.html

 所得の低い層への逆進性など,消費者側に生じる問題点はよく知られているところですが,消費税は中小事業者に対しても,たいへん厳しい税です。たとえば,国税庁が毎年発表している「租税滞納状況」では,全体で1兆2,702億円の滞納税額のうち,31%超の3,960億円を消費税が占めています。この数字は税目別でトップであるのみならず,実は,地方消費税を含んでいない金額(4%分のみ)ですので,実際にはこの1.25倍の4,950億円が滞納していることになります。滞納理由は,よく言われているように「赤字でも納税義務があること」「資金繰り」などでしょうが,今回の17年ぶりの税率引き上げは,納税が難しいだけでなく,税率引き上げに対応するコスト負担も,事業者に求められることを明らかにしました。
 平成24年度の消費税の新規発生滞納額は3,180億円(地方消費税を加えると3,975億円)でしたが,税率引き上げの影響が出る平成26年度は,単純に税率8%で計算すれば,6,360億円になります。
10%への税率引き上げの前に,どうすれば滞納の新規発生を防ぐことができるか,国税庁は,消費税の適正な徴収に向けて,更なる対策が必要になっているのではないでしょうか。

【税理士 米澤 勝】

[話題]消費税率が引き上げられました。

 17年ぶりに消費税率が引き上げられました。昨日からけさにかけてのニュースは,料金の改定に追われる事業者と,家計防衛のために買いだめしたり,定期券購入のために長い列を作ったりしている消費者の姿ばかりを追っていましたが,けさの東京新聞一面は,「理念忘れた8%」「社会保障拡充果たせず負担先行」といった見出しが並び,何のための消費税率引き上げであったのかが,改めて問い直されています。
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2014040190072343.html

 また,東京新聞は社説でも,「国民の痛みに心を砕け」として,でたらめの景気対策を厳しく断じています。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2014040102000147.html

 増税分を先取りする形で景気対策を名目とする公共事業は増加しているようで,実際,筆者の住む地域でも,3月下旬になって急に道路を雄掘り起こし,日曜日や雨天も関係なしに,公共工事が続いています。

 今後は,2015年10月に予定されている10%への税率引き上げの是非が焦点となりますが,最後に,東京新聞の社説を引用しておきます。

 安倍政権は企業活動を活性化させることで経済成長を目指すが、格差や貧困などへの目配りがなさすぎる。消費税増税の対応には、それが如実に表れている。 10%への引き上げは慎重にすべきだ。今回の増税後の経済情勢を踏まえ、時期や税率の引き上げ幅、低所得者年金生活者への配慮を十分に検討する。GDP(国内総生産)の数値だけでなく、声なき声に耳を傾け、国民の痛みに心を砕いてほしい。

【税理士 米澤 勝】

[書籍]真山仁『コラプティオCORRUPTIO』

コラプティオ (文春文庫)

コラプティオ (文春文庫)

 新聞で文庫本になったことを知って読んでみる気になった小説です。東日本大震災後の近未来の日本が舞台の政治小説ということで,大いに期待しながら読みましたが,読み始めると他のことが手につかなくなって困りました。
 作者の真山仁さんといえば『ハゲタカ』ですが,私自身は,TVドラマは見ましたが,原作を読んでいないので,真山さんの本としては初めて読む作品になります。
 タイトルのcorruptioとは,ラテン語で「汚職・腐敗」を意味する言葉だそうです。
 本書について,真山さんはこう語っています。

 本書は,『別冊文藝春秋』010年3月号から翌年5月号まで連載した同名小説を,大幅に加筆修正したものです。連載最終回の締切が,2011年3月14日で,その3日前に東日本大震災が発生しました。本書はフィクションですが,作品の性質上,その震災と福島県で発生した原子力発電所の事故を踏まえて作品を発表するのが小説家としての使命と考え,ご批判は承知の上で加筆修正を行いました。
 おそらくは,加筆修正したことにより,連載当時とはまったく違った小説になったのでしょうが,本作がフィクションでありながら,とても現実感を持たせるのは,震災後に国民の圧倒的支持を得ている総理大臣という設定が,「もしかしたら,日本が待ち望んでいる存在」こそ,この宮藤隼人ではないかと思わせるからでしょうか。

 あと二人の主役。首相を支える秘書官と大手新聞社の記者。中学校の同級生である2人は,まったく対照的な存在として描かれています。
貧しい家庭から苦学して政治学者への道を歩む過程で,宮藤の政策秘書から官邸スタッフとなった白石。裕福な家庭に育ち,アメリカ留学経験もある神林。
 早々に結婚して子供もいる白石と,独身生活を謳歌しているらしい神林。
 「バーボンは馴染めず,本場のスコッチは癖が強すぎて」と言い訳しながら,アイリッシュウィスキーのブッシュミルズを飲む白石。危地を脱出したあと,ジャックダニエルズを渇望した神林。

 作中,ジャックダニエルズのことをバーボンと表している場面があります。私の中では,ジャックダニエルテネシー・ウィスキーであり,バーボンとは呼ばないのではないかと思っているのですが,最近では,バーボンという呼称はケンタッキー産のウィスキーに限らず使われているようです。

 読んでいる最中,いつもアルコールを仕入れに行く店に寄った私は,ブッシュミルズジャックダニエルズのボトルを買って,自宅に戻りました。
 最後の200ページばかりは,白石の気持ちになって,久しぶりにブッシュミルズのグラスを傾けながら,真山さんが描く政治の世界を堪能しました。TVでは,東日本大震災から3年たっても,復興が進まない町の様子が報じられていました。

【税理士 米澤 勝】

[書籍]速水健朗『1995年』ちくま新書

1995年 (ちくま新書)

1995年 (ちくま新書)

 2012年4月,NHK深夜のニュース番組としてスタートしたNews Web 24(現在はNews Webと改称されています)は,画期的な番組だったと思います。今では,多くの情報番組が取り入れていますが,視聴者がツィートした文章を画面に表示し,それに日替わりで登場するネットナビゲーターがコメントしたり,ツィートをもとに識者に質問したりする手法は,斬新であったと記憶しています。また,ネットナビゲーターの人選もおよそNHKらしくないメンバーであるという印象を持っていました(2012年4月時点で,筆者が5人のネットナビゲーターのうち名前を知っていたのは,古市憲寿さんと津田大介さんのお二人だけでした)。
 本書の著者,速水健朗さんも,このネットナビゲーターの一人であり,シニカルなコメントと特定の分野に妙に詳しい人という印象が残っています。

 そんな著者が1995年という歴史を横に読んだのが本書です。その切り口は,政治,経済,国際情勢,テクノロジー,消費・文化,事件・メディアという6つのジャンル。
 巻末の年表を眺めるだけでも,1995年はいろんな出来事があったことがわかります。もちろん,阪神・淡路大震災が1月に起き,地下鉄サリン事件は3月にあったことは記憶にありますが,WTO(世界貿易機構)がこの年の1月1日に発足したことや,野茂投手の大リーグ挑戦とオリイクス・ブルーウェーブの優勝,PHSのサービス開始,ロッキード事件では田中角栄元首相の上告が棄却され,パスポートの有効期間が10年に延びたことなど,「同じ年にあったことだったのか」と思うくらい,震災とオウム真理教のことだけが,1995年とつながっているような気がします。そう,ウィンドウズ95に熱狂したことも,すでに遠い昔になってしまいました。

 そんな1995年を,速水さんはこう評しています(あとがきより)。

 「1995年」は,バブルの時期からたった5,6年あとの世界でしかない。一方,2013年の現在からは,18年も前の話である。とはいえ,「1995年」はバブルの時期よりも現在に近い時代であるように思う。そして,現在の日本はその95年の延長線上に置かれている未来であるのは間違いない。
 あとからその時代を振り返る楽しみの一つは,一時,スポットライトを浴びた人物がその後どうなったかを検証するという,少し意地の悪い企みにあります。
本書でも,随所にそのような話題が織り込まれ,読者の心をくすぐるわけですが,もっとも速水さんらしいなと思ったのが,『脳内革命』で400万部を記録した春山康夫氏のその後に関する,こんなコメントでした(もちろん,『脳内革命』の刊行も1995年です)。

 ちなみにポジティブ・シンキングですべてがうまくいくという内容で大ベストセラーを飛ばした著者の春山が,その教えとは裏腹に,事業の失敗,巨額の所得隠しによる摘発,自ら開設していた医院の破産と波瀾に満ちた人生を送っているのが皮肉である。
 速水さんは「はじめに」と題された文章の末尾で,「最低限,懐古趣味を満足できるもの」にしたい旨,お書きになっていますが,懐古趣味を満足させるだけにとどまらず,1995年という1年の出来事を通じて,現在の日本がどのように形作られてきたかを解き明かしていて,喉元を過ぎれば忘れてしまいがちな私たちに,ある種の警鐘を鳴らしているような読後感を持ちました。

【税理士 米澤 勝】

[書籍]廣中直行『依存症のすべて――「やめられない気持ち」はどこから来る?』

依存症のすべて 「やめられない気持ち」はどこから来る? (こころライブラリー)

依存症のすべて 「やめられない気持ち」はどこから来る? (こころライブラリー)

 もともと「依存」という言葉は,世界保健機構が薬物の危険性を表すために使い始めた言葉である(本書144ページ)らしいのですが,いまでは,「ネット依存」や「ギャンブル依存」など,薬物以外への依存を目にすることも多くなりました。
 本書は,薬物以外の依存症も含めて,依存症になるメカニズム,依存症の症状,依存症からの回復,予防といった項目を,行動薬理学が専門の著者がわかりやすく解説しています。
 とくに,「依存症と社会」と題された第6章は,依存症を予防するための規制や予防教育,司法と医療,精神医学と心理学など他分野の専門家が連携することの必要性などとともに,究極の依存症対策として,次のような言葉がありました。

 依存症を治療して「そこに戻す」,依存症になりそうな人は「そこから脱落しないようにする」の「そこ」というのは,今のこの日本といってよい。とりあえず,それしかない。たとえそれがいかに退屈で,面倒で,景気も悪く,生活も苦しく,思わず誰かをいじめたくなるほど空気の澱んだいやな世の中であっても,ここ以外に生きるところはない。
 そうなると,究極の依存症対策として考えるべきことは,この世の中を住みやすい方向に変えることである。
 もちろん,こうした主張に基づき,貧困対策,暴力団対策の重要性を訴えるというのは,「薬物乱用撲滅!」セミナーなどではあまり歓迎されないそうで,「心がけ一つで薬物乱用は防止できる」とか,「きまりを守る正しい心と誘惑に負けない強い心が大事」という話をした方が評判はいいらしいのですが,依存症患者を増やさないために,できることは何かという問いに対する,専門家としての著者の結論があるように感じました。

 インターネット依存症という言葉は,1995年にアメリカの精神科医が冗談で発表したところ,多くの専門家がこれを冗談とは取らず,翌1996年にはアメリカ心理学会で,研究成果を発表する学者が現れたというエピソード(本書172ページ)は,インターネット普及期から,ネット依存症を問題視する専門家がいたことを教えてくれます。
 一日中スマートフォンが手放せない大人も,ゲームのことが頭から離れない子供たちも,そうした行為が人体(とくに脳)に与える影響が解明されるにしたがって,オンラインゲームによる課金問題や掲示板への悪意の書き込みなどの被害で終わらない,脳機能の損傷などが明らかになり,慌てて対策が必要だという事態に陥るのかもしれません。
 そうしたときに,バーチャルな世界よりもリアルな世界のほうを大事にしましょう,という言葉をネット依存者が受け容れるためには,筆者の究極の依存症対策であるところの,「この世の中を良くする」ことの重要性がより高まってくるのではないかと思いました。

【税理士 米澤 勝】

[税制]消費税率引上げに伴う資産の譲渡等の適用税率に関するQ&A

 国税庁のHPに,「消費税率引上げに伴う資産の譲渡等の適用税率に関するQ&A」と題されたPDFファイルが掲載されました。設例はぜんぶで10問,7ページ。やや少ないかなという印象を持ちながら,読みました。
↓ 国税庁HP
http://www.nta.go.jp/shiraberu/ippanjoho/pamph/shohi/kaisei/pdf/201401qa.pdf
 昨年4月に公表されたQ&Aは59もの設例がありましたから,経過措置に関する説明が一切されていないとはいっても,ずいぶんとシンプルな内容になっています。その理由は,設例の中にありました。たとえば,問6の「不動産賃貸の賃借料に係る適用税率」の設例を読むと,
「平成25年10月1日以後に契約する賃貸借契約(改正法附則第5条第4項に規定する経過措置は適用されないもの)」
という断り書きが,しっかり明記されていて,賃貸料の受領日に関係なく,賃貸料が3月分か4月分かで,適用される税率が違うという説明がされています。
 というわけで,賃貸借契約を指定日である平成25年10月1日の前日までに締結している場合には,「経過措置がある」ということはどこにも記されていないのですが,昨年4月公表のQ&Aをあらためてお読みいただくと,適用要件はありますが,経過措置が適用されて,次回の契約更新までは5%の税率を適用される場合もありますので,注意が必要かと思います。
 詳しくは,昨年4月公表の「平成26年4月1日以後に行われる資産の譲渡等に適用される消費税率等に関する経過措置の取扱いQ&A」をお読みください。
↓ 国税庁HP
http://www.nta.go.jp/shiraberu/ippanjoho/pamph/shohi/kaisei/pdf/201401qa.pdf
 国税庁としては,「指定日」や「経過措置」といった文言はなるべく忘れてもらって,
「4月1日以降の資産の譲渡等に適用される消費税率は8%である」
と,国民を洗脳したいところかもしれませんが(税収が増えますから),経過措置の適用があるかどうか,改めて確認しなければならないと考えた次第です。

【税理士 米澤 勝】