[書籍]真山仁『コラプティオCORRUPTIO』

コラプティオ (文春文庫)

コラプティオ (文春文庫)

 新聞で文庫本になったことを知って読んでみる気になった小説です。東日本大震災後の近未来の日本が舞台の政治小説ということで,大いに期待しながら読みましたが,読み始めると他のことが手につかなくなって困りました。
 作者の真山仁さんといえば『ハゲタカ』ですが,私自身は,TVドラマは見ましたが,原作を読んでいないので,真山さんの本としては初めて読む作品になります。
 タイトルのcorruptioとは,ラテン語で「汚職・腐敗」を意味する言葉だそうです。
 本書について,真山さんはこう語っています。

 本書は,『別冊文藝春秋』010年3月号から翌年5月号まで連載した同名小説を,大幅に加筆修正したものです。連載最終回の締切が,2011年3月14日で,その3日前に東日本大震災が発生しました。本書はフィクションですが,作品の性質上,その震災と福島県で発生した原子力発電所の事故を踏まえて作品を発表するのが小説家としての使命と考え,ご批判は承知の上で加筆修正を行いました。
 おそらくは,加筆修正したことにより,連載当時とはまったく違った小説になったのでしょうが,本作がフィクションでありながら,とても現実感を持たせるのは,震災後に国民の圧倒的支持を得ている総理大臣という設定が,「もしかしたら,日本が待ち望んでいる存在」こそ,この宮藤隼人ではないかと思わせるからでしょうか。

 あと二人の主役。首相を支える秘書官と大手新聞社の記者。中学校の同級生である2人は,まったく対照的な存在として描かれています。
貧しい家庭から苦学して政治学者への道を歩む過程で,宮藤の政策秘書から官邸スタッフとなった白石。裕福な家庭に育ち,アメリカ留学経験もある神林。
 早々に結婚して子供もいる白石と,独身生活を謳歌しているらしい神林。
 「バーボンは馴染めず,本場のスコッチは癖が強すぎて」と言い訳しながら,アイリッシュウィスキーのブッシュミルズを飲む白石。危地を脱出したあと,ジャックダニエルズを渇望した神林。

 作中,ジャックダニエルズのことをバーボンと表している場面があります。私の中では,ジャックダニエルテネシー・ウィスキーであり,バーボンとは呼ばないのではないかと思っているのですが,最近では,バーボンという呼称はケンタッキー産のウィスキーに限らず使われているようです。

 読んでいる最中,いつもアルコールを仕入れに行く店に寄った私は,ブッシュミルズジャックダニエルズのボトルを買って,自宅に戻りました。
 最後の200ページばかりは,白石の気持ちになって,久しぶりにブッシュミルズのグラスを傾けながら,真山さんが描く政治の世界を堪能しました。TVでは,東日本大震災から3年たっても,復興が進まない町の様子が報じられていました。

【税理士 米澤 勝】