[書籍]ポール・ミドラー『だまされて。――涙のメイド・イン・チャイナ』

だまされて。―涙のメイド・イン・チャイナ

だまされて。―涙のメイド・イン・チャイナ

 公認不正検査士の友人から紹介されて,一気に読んでしまった本です。著者は,広州に拠点を置くアメリカ人コンサルタント。欧米の輸入業者をクライアントとし,中国での委託生産の仲介を業としています。本書の面白さは,欧米の輸入業者と中国のサプライヤーとの間の駆け引きが,実に生き生きとユーモラスを交えて語られているところで,読んでいてつい先を急ぎたくなる(結果を早く知りたくなる)ものでした。

 中国製品をめぐる問題は,日本でもよく報道されます。著者はこうコメントしています。

 中国の品質問題はよく知られるところで,それが中国経済にとって不安材料になっていることは間違いない。中国の品質スキャンダルで不思議なのは事件そのものよりもむしろ,発生した問題に対してなんの対応もとらない点にある。根本的な解決策を考えるよりも,その問題の言いわけを探すほうがよほど重要かのようだ。
 こうした「言いわけ」の最たるものが,受託生産を行っている経営者の次のような反駁ではないかと思います。

 輸入業者が品質向上のために奮闘しているとき,材料のすり替えや模造が本当にやりきれないのは,工場が最後には被害者に責任をなすりつけることである。製品の質を落としている件がばれたとき,帝王化成(引用者注:筆者の交渉相手である,仮名の製造会社)は傷口に塩を塗るような反駁をしてきた。「こんな値段しか払わないで,何ができるっていうのよ?」 これははたして正当防衛といえるだろうか。この価格で委託生産に合意したはずなのに,工場が品質をごまかした結果,顧客は予期していたより質の劣る製品を受け取るはめになるなんて。
 中国のサプライヤーが繰り広げる虚々実々の駆け引きについては,ぜひ,本書をお読みいただきたいと思います。訳者もあとがきで,「中国製造業に携わる方なら『ウチも同じ手を喰った。チクショー!』と歯ぎしりする場面も多いことだろう」と解説しているように,一筋縄ではいかない中国における委託生産ビジネスの実態がよくわかります。

 本書では,最後にアメリカの輸入業者が一矢を報いたところが描かれていますが,中国のサプライヤーもまた転んでもただでは起きないしたたかさをみせつけます。
 最後に,筆者のコメントをもう一つ,引用します。

 専門領域を深く追究することで支払わねばならない代償は,その醜い面を知ってしまう点だ。
【税理士 米澤 勝】