[書籍]田口安克・白土英成・田島雅子『従業員不正の防止と事後対応』
従業員不正の防止と事後対応―ケースでわかる横領・着服の経理処理
- 作者: 田口安克,田島雅子,白土英成
- 出版社/メーカー: 税務経理協会
- 発売日: 2012/12
- メディア: 単行本
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残念ながら,画期的な「不正防止策」というのはありません。これは,小職自身もセミナーなどでしゃべらせていただいているのですが,結局は,やるべきことを地道に,基本に忠実に行い,例外的な処理を認めない,といったことにつきます。本書でも,繰り返し語られる不正防止策は,
人事ローテーション
複数の担当者による相互牽制
適切な承認者による事前承認
実地棚卸の励行
残高確認書の発行と差異の確認
領収証は連番管理とする(市販の領収証を使わせない)
などであり,とくに目新しい項目はありません。多くの会社でも,こうした内部統制上の仕組みは導入されているはずです(それでも不正は発生するわけですが)。
結局,これらの業務プロセスが「不正を防止する」という観点で運用されているかどうか,むしろ問題はそのあたりの意識にあるような気がします。なんのために,複数の担当者を配置しているのか,上長の事前承認を必要とする理由は何か,そうしたことが理解されていないからこそ,社内規程がないがしろにされ,ローカル・ルールによる運用がまかり通り,不正が放置されているのではないでしょうか。
本書を読んでいて,不正を防止するための本であるにもかかわらず,不正が防止できない原因について考えました。
Case 39の不正事例は「ポイントカードがつく小売店で備品等を購入し,ポイント分を個人のものとした」というもので,なかなか悩ましい事例で,こう解説されています。
会社の備品購入について付与されたポイントは会社のものとなりますので,これを私的に使ってしまうと横領・窃盗の罪に問われる可能性があります。 会社の経費を使ったことによって生じたポイント=現物支給という解釈がなされ,税務上「給与」としてみなされる場合が考えられます。そうなると,このポイント部分が所得税法上課税対象となり,また,源泉税も徴収される恐れがあります。
「可能性」「恐れ」という表現ですので必ずこうなるというものでもないような気がします。小職自身は,このような指摘を税務調査で受けた覚えがないので,実際問題どのように運用されているかはわかりませんが,給与課税が問題となるようなポイントって,金額換算でどれくらいになるのでしょうか。
いずれにせよ,金額の大きな備品の購入などは,個人による立替を許さないこと,量販店などであれば,法人名義のポイントカードを作ることなどで対応することになりそうです。
【税理士 米澤 勝】