[刑事事件]たばこ税脱税で初めての刑事告発

 2010年10月1日,たばこ税が1本当たり3.5円引き上げられた際に,引き上げ前に大量のたばこを仕入れ,270万箱約9,400万円のたばこ税を脱税したとして,東京国税局が,東京都目黒区のパチンコ景品卸会社と同社の社長を東京地検に告発しました。たばこ税は,地方公共団体(この場合は,東京都と目黒区)にも納付しなければならないため,脱税額は全体で約1億8千万円を超える模様です。東京新聞では,「国税庁によるとたばこ税法違反での刑事告発は初めて」と報じられていました。
↓ 毎日新聞の記事
http://mainichi.jp/select/news/20130712k0000e040215000c.html

 私たちは,税理士を名乗っているわけですから,およそ「税」のことなら何でも知っていて当然だろうと思われているかも知れませんが,実際には,日常業務で接している税は,法人税所得税,消費税,相続税くらいで,同じ国税でも,酒税やたばこ税については,ほとんど知識はありません。今回,報道を読みながら初めて知ったこともいくつかありました。
 たとえば,たばこ税増税前に仕入れたたばこに対する課税方法については,増税実施日において2万本以上の在庫を持つ業者は税務署に申告して増税分を納付する必要があるそうです(手持品課税)。一方,パチンコ店が扱う景品用のたばこは,販売目的ではないことから,この手持品課税の対象になりません。
 本件は,この制度を悪用し,増税前に大量に仕入れたたばこを,10月1日以前にパチンコ店に販売したように偽装して在庫を減らして手許品課税を免れ,その後,返品があったかのように経理処理を行って,増税分のたばこ税を納付していないたばこを増税後の価格で販売していたということです。

 筆者はたばこを喫わないため,たばこ税の増税については関心が薄いのですが,増税日に一斉に値上げする制度には,少し違和感を持っていました。増税前に仕入れたたばこは旧価格で売ってもいいのではないかと。それを許さないのが,この手持品課税制度だったわけで,なるほどと思った次第です。
 本件は,たばこ税の仕組みを知悉したうえでの脱税でありますが,たばこ販売業者に対して,一罰百戒的な効果を期待しての告発ではないかと思うところです。刑事罰については,たばこ税法第27条で,「偽りその他不正の行為によりたばこ税を免れ,又は免れようとした者」は,「十年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し,又はこれを併科する」ということになっています。

【税理士 米澤 勝】