[書籍]藤田伸二『騎手の一分 競馬界の真実』

 私自身,かなり熱心な競馬ファンだった時期が長くありました。アメリカからSunday Silenceが輸入され,その産駒が日本の競馬界を席巻し始めたころから,嘘のように競馬熱が冷えていきます。20年以上購読し続けてきた競馬週刊誌を買わなくなり,週末のスポーツ紙を手に取る頻度が少なくなり,1年間に馬券を購入するレースの数は20レースくらいまでになりました。
 競馬界の情報からも遠く離れていた私に,現役ジョッキーが教えてくれた現状は,実に暗いものでした。
 たとえば,ジョッキーの数ひとつをとってみても,日本中央競馬会JRA)に所属しているジョッキーは,1982年に252人だったのに,現在では,約130人と半分近くにまで激減しているということです。おまけに,騎手の卵である競馬学校の志望者数が,1997年の761人から2010年には148人に減少しているそうです。こんな現状を,藤田ジョッキーは,

 いつのまにか日本人のスター騎手がいなくなってしまったことも要因の一つなんじゃないかな。競馬界に魅力がなければ,メディアにもだんだん見放されていく。そうなれば,子供たちにも騎手という仕事に魅力を感じてもらえなくなる。
と分析します。

 競馬に魅力を感じなくなったというのは,私自身が競馬から離れた理由と同じかもしれません。レースで勝つのは,いつも,同じ馬を父に持つサラブレッドたちで,その鞍上には,同じ馬主グループの勝負服を着たジョッキーたちがいました。

 藤田騎手によると,今,競馬界で絶大な力を持っているのは,一部の大手クラブや有力馬主であるということで,これは納得できるところですが,発言力が強くなると弊害も多いようです。同じ馬主の馬が同じレースに複数エントリーしていると,当然,「共闘」するのではないかと思うところですが,実際に,馬主から,レースでの騎乗について指示されることもあるとのことです。やはり,同一馬主の馬は,馬券上は一頭とみなす制度を作り,賞金も最上位に入線した馬にしか払わないような仕組みに改めないと,不正を疑われても仕方がないのではないかと思います。
 藤田騎手もこう言っています。

 新しいシステムに作り変える方法は,いくらでもあるはずだ。たとえば,同一レースには同馬主の出走馬の頭数を制限するとか,また欧米のように同一馬主の馬がワンツーゴールしても,併せて1着にして,3着が繰り上がって2着になるとか。
 本書では,JRAに対する批判だけでなく,現役ジョッキーの騎乗ぶりやフォームについても,鋭い意見が述べられています。
 最近の競馬は面白くないと思っている競馬ファンには,とても興味深い内容になっていると思います。

【税理士 米澤 勝】