[話題]企業財務研究会「経営者の報酬はどうあるべきか」

 昨日(4日)の午後は,金融庁金融研究センターおよび企画開示課が主催する企業財務研究会に出席しました。場所は金融庁15階。講師は,早稲田大学商学学術院教授の久保克行先生,演題は「経営者の報酬はどうあるべきか」というものです。
 講義の基礎となっているデータは,久保教授が,日本とアメリカの上場企業が開示している情報をもとに,不足部分を推計するなどの手法で集められた役員報酬額です。日本の社長の役員報酬は,中央値で約7,000万円(2007年)で,持株の価値は約5,000万円だが,株価下落の影響で価値は約1,000万円下落している,などのデータを知るだけでも興味深いものがありました。

 アメリカでは,かねてより,高過ぎる役員報酬が過度のリスクをとるインセンティブとして,単年度業績が強調され,長期的利益より短期的利益を追求することの弊害が言われてきましたが,一方,日本では,「成功しても報酬は増加しないが,大失敗をすると職を失う」という状況に経営者が置かれていることから,リスクを取らないことがROAの低さにつながっているということです。

 面白い指摘はたくさんありましたが,たとえば,日本では,金融不祥事があった企業と,その他の企業で,経営者のインセンティブストックオプションに有意な差は観察されておらず,これは,日本の経営者の業績報酬連動度が小さいということと整合的であるが,アメリカでは,関係の有無について研究結果が分かれており,結論が出ていないということでしたが,この論点は,両国の報酬制度の相違が経営者を不正へと誘うインセンティブにどうつながるのか,気になるところです。

 久保教授の主張の骨子は,現在の日本の役員報酬制度は「リスクを取らないように経営するインセンティブを持つ」ことから,「経営者に企業価値を最大化するようなインセンティブを付与する」報酬制度への改革が必要であり,同時に,外部からのコントロールを可能とするため,役員報酬の適切な開示についても整備を図るべきである,というように理解しました。
 役員報酬をどこまで業績連動型にするのかは簡単に結論の出る問題ではないと思いますが,日本の場合,法人税法で「損金の額に算入できる役員報酬」について制限が設けられていることが,役員報酬制度の設計における自由度を狭めている側面もあろうかと思いました。

 約1時間30分の講義の後,会場からは活発な質問が出され,多様な質問者――大学生,弁護士,コンサルティング会社社員,銀行員,金融庁職員など――に驚きました。
 その中で,ある質問者の方が,
アメリカの経営者は社長になって金儲けをすることを目的としているが,日本の経営者の場合は,社長になるのが目的であって,金儲けのことはあまり考えていないのではないか。という趣旨の発言をされていて,これには,なるほどと頷いた次第です。

【税理士 米澤 勝】