[税務争訟]的中馬券に対する課税処分(大阪地裁判決)

 3年間で28億7千万円分の馬券を購入し,30億円余りの的中配当を得た元会社員(39)が無申告加算税を含む約6億9千万円を追徴課税された上に,所得税法違反の罪で大阪地検に告発され,起訴された事件で,大阪地方裁判所は,元会社員に懲役2カ月,執行猶予2年の有罪判決を言い渡しました。
↓ 日本経済新聞の記事はこちら。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASHC2300Q_T20C13A5000000/
http://www.nikkei.com/article/DGXNASHC2300V_T20C13A5000000/

 第一報で有罪が伝えられた時点では,裁判所がどのような判断をしたのか不明でしたが,第2報以降,裁判所が競馬の払戻金は雑所得に当たると認定して,外れ馬券の購入費を必要経費と判断したことが伝えられ,弁護側の主張がほぼ受け入れられた,実質的には勝訴に近い内容のようです。

 この判断は,1億4千万円しか儲かっていないにもかかわらず,6億9千万円もの所得税を課税した大阪国税局の処分が,元会社員の担税力だけを考えても,まったく不当なものであることを示しており,大阪地裁はきわめて妥当な判断を示したと言えます。また,弁護人である中村和洋弁護士には大きな拍手を送りたいと思います。

 本来,こうした無理な課税処分を是正するために存在するはずの国税不服審判所は,当たり馬券に対する課税処分については,馬券の払戻金を一時所得に分類している国税庁の内部通達に依拠した判断を行うのみで,とても独立した第三者的機関として機能しているとは言えませんでした。
 国税不服審判所が機能しない理由は,審判所が国税庁の組織の一部門であり,審判官の多くが国税職員であることが挙げられますが,それに加えて,国税不服審判所長は,国税庁長官が発遣する通達と異なる解釈により裁決を行う場合には,事前に国税庁長官に意見具申をしなければならない(国税通則法99条)という規定の存在があります。国税不服審判所長が意見を申し出たのは過去9件しかなく,事実上,国税不服審判所の判断は,国税庁内に通達に縛られてきました。
 今回,裁判所が所得税法の規定にのっとり,競馬の払戻金を雑所得と認定したことは,あらためて,国税不服審判所の存在意義を問うものであったように思います。

 中村和洋弁護士のHPによれば,元会社員は,すでに約5,500万円の納税を終えているということですので,検察と国税局はメンツを捨てて,控訴を断念すべきでしょうし,国税庁は早急に通達を改正すべきです。課税処分の取消を求める民事訴訟も進行中とのことですが,これも,今日の判決に沿った内容に課税処分を変更することで,これ以上,納税者に負担を強いることのないよう,配慮がすることが求められると思います。
 個人的には,起訴された当時「会社員」と表記されていた被告人が,「元会社員」となっている点が気になりました。
 今回の課税処分の影響で会社を辞めざるを得なくなったのだとすれば,たいへん残念です。

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【税理士 米澤 勝】