[書籍]菊池真『円安恐慌』

円安恐慌 日経プレミアシリーズ

円安恐慌 日経プレミアシリーズ

 円安が止まりません。けさの外国為替市場では,1ドル=102円となり,4年7カ月ぶりの円安が伝えられています。円が安くなったおかげで,輸出関連業種を中心に株価も上昇していています。振り返ってみますと,第2次安部政権発足前1ドル=80円程度で推移していた為替相場は,約4カ月で25%上昇した計算になり,同時に,政権発足時1万円を少し超えた水準だった日経平均株価も1万4千を超え,1万5千円台を目指そうかという勢いです。
 こうした市場の動きに関しては,何か,円安になったおかげですべてがうまくいくような報道がされています。
 でも,本当にそうでしょうか。
 本書は,長年資産運用を手がけてきた著者が,これまで円高が進んできた要因を分析し,円高から円安への反転後の日本経済を予測したものです。第2次安部政権が誕生する以前に書かれたものであり,いわゆる「アベノミクス」が予測されていない中での分析ではありますが,円安の進行はいいことばかりではない,という著者の論理は,大変参考になりました。
例えば,円安が一般消費者に与える影響については,次のように説明しています。

 一般消費者は円高進行で何か困ったことがあったでしょうか。個人輸出でもしていなければ,何もなかったはずです。むしろ,日本経済は円高のせいで給与水準が増えないなか,デフレのおかげで何とかやってこられたのです。
 私自身,円高が原因で困ったという実感はありませんし,むしろ,輸入品が高くなると,ウィスキーやコーヒー豆といった私にとっての生活費必需品は,間違いなく値上がりするだろうと思うと,少し気が重いところです。

 こうした状況で円安が進行すると,企業は,生産コスト上昇分の一部を利幅を縮小して吸収し,残りを販売価格に転嫁します。給与水準は低いままですから,購買力は増加していません。その結果,企業業績は悪化し,かつ,物価だけが上昇します。
 一方,消費者は,企業業績の悪化で給与水準は上がるどころかさらに下がる可能性があるなか,物価上昇を受け,さらに節約を行い,景気はますます悪化します。
 これが著者の説明するコスト・プッシュインフレの世界です。
 インフレの結果,国債の流通利回りは上昇し,国内金融機関は,保有国債の含み損が拡大,自己資本が減少します。日本国債の格付けが引き下げられ,日本のカントリーリスクが注目される結果,円安は一段と加速,しかも独歩安の状態に陥ります。日本株は大幅下落し,外国人投資家は,円資産を保有するリスクを回避するため,売却に動きます。こうした日本発の金融危機を回避するために,米国をはじめとする主要国は日本に対し,IMFへの支援要請を行うよう,圧力をかけることになる――タイトルの「円安恐慌」が意味するのはこうした事態でしょうか。

 実際に長期金利が上昇して,国債価格が暴落するというシナリオが実現すのかどうかはともかく,円安・株高がいいことばかりを引き起こすわけではないということは,常に肝に銘じておきたいと思います。

【税理士 米澤 勝】