[書籍]志賀櫻『タックス・ヘイブン――逃げていく税金』

 志賀櫻弁護士といえば,論客ぞろいの租税訴訟学会の中でも,ひときわ大きな声で発言されているのが印象に残っています。そんな志賀弁護士が,大蔵省時代の経験をベースに,タックス・ヘイブンがいかに害毒に満ちたものであるかを,具体的な事件を引用しながら,時にはユーモアも交えて解き明かしてくれる本書は,ふだん,知ることのできない国際関係の舞台裏も見えて,たいへん興味深く拝読いたしました。

 読んでいてすっと納得感を得られる表現が非常に多いのですが,たとえば,所得税が基幹税になりえない現状について,次のように解説されています。

 現実的には,所得税を基幹税とすることはなかなか難しい。累進的な所得税制が敷かれれば,個人またはその所得の源泉は国外に移動して,日本国の課税権の枠の外に逃れてしまうからである。経済がグローバル化して資金は国境を越えて簡易・迅速に動けるにもかかわらず,課税権は国境をこえると有効には及ばない。そして,海外にはタックス・ヘイブンが口を開けて待っている。これでは,所得税を基幹税として選択することはできない。
 他にも,旧宗主国が旧植民地であるタックス・ヘイブンの擁護に回ることがあるとか,中央銀行総裁は,同業者意識が強いから,夜中にたたき起こされることが少なくないとか,著者ならではの裏話が明かされていますが,もっともびっくりしたのは,志賀弁護士が,岐阜県警本部長時代に,サリン事件後の厳戒態勢の中で皇太子ご夫妻を迎えられた場面のエピソードで,ご自身のことを,「お付きの方も,直衛する県警本部長が,小火器の名手で,剣道5段で,騎兵並みの馬乗りであると知って,いたく安心されていた」と評されている場面でした。
 小火器の名手で,剣道5段で,騎兵並みの弁護士って,すごいですね。

【税理士 米澤 勝】