[書籍]佐藤真言『粉飾――特捜に狙われた元銀行員の告白』

粉飾 特捜に狙われた元銀行員の告白

粉飾 特捜に狙われた元銀行員の告白

 都市銀行を退職後,経営コンサルタントとして中小企業の支援を続けてきた佐藤真言さんによる書き下ろしです。佐藤さんは,昨年9月,東京高等裁判所で控訴を棄却され,第一審の懲役2年4月の実刑判決を争って上告中です。
 筆者は,佐藤さんと知り合う縁に恵まれ,たまたま出身が同じ大阪市内の同じ学区ということもあって,何度かお話をする機会がありました。
 事件については,当ブログでも取り上げた産経新聞の石塚健司氏が書いた『四百万企業が哭いている――ドキュメント検察が会社を踏み潰した日』にも詳細に説明されているので,繰り返しませんが,外部から客観的に事件を見つめる石塚さんに対し,当事者である佐藤さんの気持ちがより緊迫感を持って語られています。
↓ 『四百万企業が哭いている』に関する当ブログの記事
http://d.hatena.ne.jp/takanawa2009/20121109/1352425986

 本に巻かれた帯の裏側に,こんな言葉がありました。
「ついに東京地検特捜部が一般市民に刃を向けた」

 佐藤さんの事件を離れて考えても,3月1日に東京地方裁判所で無罪判決を得たとはいえ,クレディ・スイス証券元部長の所得税過少申告事件でも,国税局査察部の告発を受けて地検特捜部が起訴しましたし,新聞で報道されている競馬の的中馬券に関わる申告漏れ事件でも,特捜部が起訴しています。
 幸い,クレディ・スイス証券元部長の裁判では,検察が「脱税の故意」を立証しきれなかったこともあって(もちろん,弁護人による訴訟戦略を大いに功を奏したのでしょう),東京地裁の佐藤弘規裁判長が「推定無罪」の原則に従って,勇気を持って無罪判決を言い渡してくれましたが,それでも,検察側は控訴し,元部長の戦いはまだ終わっていません。
↓ 当ブログの記事「的中馬券に対する課税処分」
http://d.hatena.ne.jp/takanawa2009/20121203/1354527050

 本書は,粉飾決算に手を染めざるを得ない中小企業の事情だけでなく,中小企業に対する銀行融資はどうあるべきか,いかにして資金繰りに苦しむ中小企業を救うことが難しいかといった,私たち職業会計人が理解しておかなければならないことが,佐藤さんという真摯なコンサルタントの目を通して描かれています。
そして,拘置所の中での意識の変化や疑心暗鬼に陥る様子,弁護人の訴訟戦略がいかに大事かなど,経験しないで済むにはこしたことがありませんが,「一般市民」としても知っておくべきことが,正直に語られています。

 友人の一人としては,本書がたくさん売れて,訴訟費用が賄えるようになればいいという思いと同時に,本書が注目されて,特捜検察による取調べの問題点や訴追裁量権,起訴便宜主義など,これまで問題とされることが少なかった点が広く議論になることを願ってやみません。

↓ 佐藤真言さんの応援サイト
http://www.supportingsato.com/introduction/

【税理士 米澤 勝】