[書籍]森信茂樹『消費税,常識のウソ』

消費税、常識のウソ (朝日新書)

消費税、常識のウソ (朝日新書)

 元財務省キャリア,中央大学法科大学院の森信茂樹教授による,財政再建のための消費税増税論。
 森信教授自身が,
「これまで消費税と名がついた書籍は,読者の関心を呼ばず(正確に言えば,関心はあるが読みたくない,聞きたくない),ましてや消費税を前向きにとらえた書籍などは新書にはならない」
という思い込みがあったと「あとがき」に書かれているように,消費税増税の必要性は認識しながらも,面と向かって消費税増税を論じた書籍を読みたいと思う人は,少ないのかもしれません。
 森信教授といえば,消費税率が3%から5%に上がったとき,大蔵省主税局で消費税の増税推進を担当されていたことで有名ですが,同時に,消費税法30条7項に規定する仕入税額控除を受けるための要件を「帳簿又は請求書等の保存」から「帳簿及び請求書等の保存」へ変更して,適用要件を厳しくしたため,仕入税額控除の否認が増えたと,税理士のうちでは評されることもあるようです。

 本書は,消費税について,いろんなメディアで語られている間違った解釈を,森信教授がクリアカットに誤解を解く第1部と,あるべき税制の姿を考える第2部に分かれていますが,両方のパートを通じて語られているのは,消費税増税による財政再建だけではなく,いかに課税ベースを広げて,課税の公平性を確保するかということです。
 具体的には,
日本の法人の7割を超える赤字法人に対する課税強化
宗教法人や社会福祉法人に対する優遇税制の見直し
医師優遇税制の見直し
個人所得税における所得控除の見直し
などが挙げられています。いずれも異論を挟む余地の少ない主張であり,森信教授以外にも多くの識者が指摘してきたことです。民主党政権下の3年余りで,こうした既得権益の切り崩しができなかったことは本当に残念でした。

 衆議院議員選挙の結果次第で,消費税率アップがどうなるのか,「三党合意」は遵守されるのか,まったく分からない状態です。毎年12月に公表されてきた「税制改正大綱」も,今年はどうなるのか。税理士向けの税制改正セミナーの中には,年内開催を延期したものも出てきているようですが,民主党がやり残したこと,たとえば「納税者権利憲章の制定」がどうなるのか,たいへん気になるところです。

【税理士 米澤 勝】