[話題]査察による脱税摘発の低迷(東京新聞より)

 東京新聞が10月7日付の「こちら特報部」で詳しく取り上げていました。
 ネット上では公開されていないようですので,見出しを列挙します。

「マルサ」低迷 不況影響
昨年度,摘発脱税額 70年代の水準
証拠品改ざん 検察への目 厳しく慎重
 記事は,昨年度,全国の国税局査察部が摘発した脱税額が192億円(189件)にとどまり,脱税額が200億円を下回るのは1978年度以来であること,そのうち検察庁へ告発したのが117件で,告発率61.9%も1973年度の61.1%に次ぐ低水準に終わったことを報じています。
 摘発した脱税額が落ち込んだ理由について,
1 不況の影響
2 検察庁が慎重になり,告発を受け付けなくなったこと
3 手口の巧妙化,個人情報保護,IT化,国際化により,調査がやりにくくなったこと
4 国税職員の質の低下
を挙げて説明しています。

 確かに,印象としても,最近,脱税事件の疑いで査察が入ったとか,摘発したとかいうニュース自体も減ってきている印象があります。
 ただ,筆者としては,査察による脱税の摘発件数,金額が減少したことに批判的な東京新聞の論調は少し気になるところです。例えば,「国内最強の調査能力を持つと言われるマルサらしからぬ低空飛行」という風に,記事のリードにもありますが,脱税の摘発が減る,イコール,長年にわたって,適正な申告納税を推進してきた効果,というような好意的な見方はできないものでしょうか。一罰百戒的とさえ評されるような査察による脱税事件報道の効果,結局のところ,脱税は割に合わないという認識の広がり,何より,脱税は恥ずべきことだと考える納税者意識の高まりといった影響について,何ら検証することなく,記事をまとめているのはどうなのかなと思います。
 そもそも脱税事件が減少したということを,適正な申告納税が実現した結果ととるのか,脱税事件が潜行してしまい,査察部の調査能力をもってしても摘発までに至らないととるのかでは,見方180度違うわけです。どちらが現状認識として確かなのか,そのあたりの分析も欲しかったところです。
「査察の概要」国税庁によるリリ−スはこちら

http://www.nta.go.jp/kohyo/press/press/2012/sasatsu_h23/index.htm

 実は,査察以外の通常の税務調査についても,調査件数,申告漏れ所得金額などは,減少傾向にあります。例えば,法人税に限っても,調査件数は139銭件から125銭件へと,申告漏れ所得金額は20,493億円から12,557億円へと大幅に減少していることが発表されています。
「平成22事務年度法人税等調査事績の概要」

http://www.nta.go.jp/kohyo/press/press/2011/hojin_chosa/01.htm#a01

 国税庁からは事績数値が発表されているだけで,分析的な解説は一切ありませんが,長引く不況により申告納税額の減少という表層的な分析だけではなく,とくに法人税については,内部統制やコンプライアンス,ガバナンスの強化といった経営者の意識変革を促してきた一連の法改正により,納税者側の意識が変化している影響も少しはあるのではないか――やや楽観的観測ではありますが――と思料するところです。

【税理士 米澤 勝】