[税制]相続による取得した宅地をめぐる税制(その1 広大地)

(お詫び)
 広大地に関して何かを調べようとしてこのブログを訪れた方へ。
 残念ながら,このページは課税庁の広大地に対する課税姿勢への批判と納税者側の憤懣が綴られているだけですので,広大地に関する有益な情報をお求めの方は,検索された他のウェブページを閲覧されることをお勧めします(筆者)。

 相続税について公表されている国税不服審判所の裁決の中で最も多いのが,「広大地」をめぐる納税者と課税庁の見解の相違による不服申立に関するものだということだそうです。小職が最近受講した研修でも,中央大学の大淵博義教授や税理士の藤曲武美先生が,批判の仕方は異なるものの,広大地認定における課税庁側のかたくなな(恣意的な?)主張に対し,大いに疑問を呈されていました。
 9月18日夕刻,租税訴訟学会は「広大地の要件を検証する」と題し,税理士の守田啓一先生を講師として第38回研究会を開催しました。研究会では,守田先生が補佐人として係わった租税訴訟を題材にするということでしたので,東京国税局訟務官との生々しい闘いぶりを聞くことができるのではないかと期待しながら,聴講いたしました。
 冒頭,租税訴訟学会副会長で税理士の山本守之先生から,「広大地っていうのは法律に規定がない。課税実務が通達に依っているっていうだけでも租税法律主義に照らしてどうかと思うのに,通達の判断基準を示した「情報」の内容に関して訴訟が行われ,それを裁判所が判断するなんて,それでいいのか」という趣旨のご発言があり,会場は大いに湧きました。

 そもそも「広大地」というのはどういう概念でしょうか。財産評価通達24-4の定義を簡単にまとめます。
 広大地とは,その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地で都市計画法4条12項に規定する開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるものをいう。ただし,大規模工場用地に該当するものおよび経済的に最も合理的であると認められる開発行為がマンションを建築することを目的とするものであると認められるもの(マンション適地)を除く。
「その地域」……どこのことでしょうか?
「標準的な地積」……何平方メートルのことでしょうか?
「著しく地積が広大」……どれくらい広ければ該当するのでしょうか?
「公共公益的施設用地」……何のことでしょうか?
「マンション適地」……誰が決めるのでしょうか?

 とまぁ,通達を読んだだけでは理解できないことばかりですので,国税庁は,この通達に関し,平成16年と平成17年に「資産評価企画官情報」を発遣して,広大地の判断基準を明らかにしております。結果,広大地に関しては,評価通達と情報を解釈して,その適用要件を判断するという課税実務が行われており,租税法律主義はどこへ行ってしまったのだろうかという,冒頭の山本守之先生の発言につながっていきます。

 宅地が広大地に該当することが認められた場合には,相続税評価額が大幅に低くなることから,納税者はなんとしても広大地として相続税の申告を行おうとし,課税庁は広大地ではないことを立証して,相続税収の確保――課税庁側からみれば「課税の公平」を図ろうとするわけですから,当然のように争いが生じます。簡単に言えばそういうところなのですが,それでは,面積がどれくらいあれば著しく地積が広大なのか,マンション適地とは何か,公共公益的施設の負担が必要とはどういうことか……こうした疑問にお答えすることは小職の手には余りますので,ぜひ,信頼できる専門家の書かれた解説をお読みいただければと思います。

 研究会で質問に立たれた広島の不動産鑑定士の方がこんな意見を述べられました。
「広大地かどうかで事実認定を争ったら,課税庁には勝てない。当該宅地の不動産鑑定価格で争ったら,その宅地の価格が低いかどうかは個別の事情なので,争える余地があるかもしれないのではないか」
 もともと,広大地の評価額を下げる通達を発遣した意図は,広大地はそのままでは買い手がつかず,いくつかの区画に分割して宅地造成をする必要があり,その際に分譲できない部分(私道など)が生じることから,売却価格が標準的な地積の宅地より安くなってしまうため,これを救済するための規定だったはずです。であれば,鑑定評価によって「時価」を算定し,それを相続税における課税価格として申告を行うことは,確かに理屈が通ると思います。

 また,講師の守田先生もこんな話をされていました。

「期限内申告では広大地ではなく,通常の宅地として課税価格を計算して,申告納税しておき,その後当該宅地を戸建建築業者に売却し,その業者が,広大地の適用要件を満たす宅地開発を行ったときに,相続税に関して更正の請求を行う方法は認められるだろうか。これまでは,更正の請求期間が1年だったために,(時間的な問題から)こんな更正の請求はできなかったが,請求期間が5年に延びたことで,宅地開発後の更正の請求ができるようになった。実際,広大地の要件を満たす開発が行われている宅地を前にしたら,課税庁も広大地であることを認めざるを得ないのではないか。」
 すごい問題提起ですね。
 ぜひ,そうした事例を経験されましたら,税理士会の研修や租税訴訟学会の研究会でお話しいただければと思います。

【税理士 米澤 勝】