[書籍]大瀧雅之『平成不況の本質――雇用と金融から考える』

平成不況の本質――雇用と金融から考える (岩波新書)

平成不況の本質――雇用と金融から考える (岩波新書)

 著者の大瀧雅之さんは,東京大学社会科学研究教授の肩書を持つマクロ経済学がご専門の学者のようです。教授が,経済学者の間でどのような評価を受けておられる方なのか,どういう立場から経済を論じておられるのかといった予備的知識をまったく持たないまま,本書を読み終わりました。
 残念ながら,大瀧教授が本書で展開している理論のすべてが理解できたとは言えませんし,とくに数多く説明される算式の多くは,経済学とはそういうものかも知れませんが,成立のための前提条件が多く,理解に苦しみました。また,教授が論じた「平成不況の本質」をきちんと理解できたかどうかははなはだ疑わしいのですが,ただ,最終章に「公正な所得分配を求めて」という節を設けて論じられた,復興財源に関する提言については,もっと議論されていいテーマではないかと強く思いました。

 教授は,次の3点を復興財源のための増税の前になすべきことと指摘します。
所得税の累進率・最高税率をもとへ戻し,高額所得者の優遇をやめること。
相続税の累進税率を1992年以前の水準に引き上げ,それと見合った形で贈与税の税率も引き上げること。
3現在分離課税になっている証券からの所得を,所得税の課税ベースに算入し,一刻も早く富裕層・高額所得者を対象とした証券優遇税制をやめること

 その理由として,「現状の税制は,まさに所得の不平等を拡大する方向へ作用するもの」であり,「働かねば明日の糧を得られない」市民からのみ復興財源を調達し,「働かず資本所得で暮らす自ら(引用者注:政治家たちの)支持層になんら追加的負担を求めようとしない」からであり,その結果として,「多くの市民が政治に絶望している」ことを自然の成り行きであると説明します。

 消費税増税よりも,所得税相続税の水準をもとに戻し,証券優遇税制という名の富裕層に対する優遇策を廃止することで,復興財源が賄えるのではないかという議論に対しては,そんなことをしたら,富裕層はみな国外脱出して,日本はますます空洞化が進むという反論がつきものですが,私の個人的な意見では,「税率が高いから海外移住に踏み切る」という人は,現行の税率でもとっくに日本から脱出しているのではないかと思います。大多数の人は,そうもいかないから,山田順『資産フライト――「増税ニッポン」から脱出する方法』を読んで,仮想体験をすることによってガス抜きをしているのではないかと思ったりするのですが,いかがでしょうか。

資産フライト 「増税日本」から脱出する方法 (文春新書)

資産フライト 「増税日本」から脱出する方法 (文春新書)

【税理士 米澤 勝】