[企業不正]オリンパス社150億円申告漏れ報道

 オリンパス社の粉飾事件に絡んで,東京国税局の税務調査により,ファイナンシャルアドバイザー(FA)に支払った報酬約150億円が経費として認められず,過少申告加算税を含めて約50億円が追徴課税されることになったという記事。

↓ 日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG03054_T00C12A7CC1000/?dg=1
↓ NHKニュース
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120704/k10013315711000.html

 粉飾決算が明らかになった時点で,国税局による税務調査は予見できたことであり,そうすれば,FAに支払った巨額の報酬が否認対象になることは明らかでしたので,申告漏れ報道そのものには目新しさはないかと思います。
 オリンパス社としては,過年度の有価証券報告書を訂正した段階で,こうした支出については,長期未収入金に計上のうえ,貸倒引当金を設定しているわけですが,法人税の申告については,まだ修正をしていないため,こうした課税処分がされるということでしょう。
 また,日本経済新聞電子版によると,この申告漏れに関しては重加算税の適用は見送られたそうですが,これは当然であろうかと思います。もともと粉飾決算自体が,本来納付すべき税額以上の税額を納付する行為であり,であれば,法人税法55条1項の規定による「隠ぺい仮装行為による支出の損金不算入」は適用できないこととなり,「隠ぺい又は仮装」という重加算税に適用要件を満たすことは難しくなることによる判断ではないかと。
 税務調査を受ける身からしますと,何か不正が発見されると,国税調査官からはすぐに「不正=重加算税」のような発言があって,困惑することが少なくないのですが,本件,重加算税の賦課決定を見送ったことは適切な判断だったと思います。

 なお,オリンパス社からはコメントを得られないようですが,納税者であるオリンパス社としては,過去の粉飾決算について,有価証券報告書は訂正したものの,法人税の申告についてどのように修正すべきか,国税局と調整をしているところではないかと考えますので,コメントは出せないのではないでしょうか。

オリンパス社平成24年3月期有価証券報告書より(p.72)
2.今後の状況
平成23年11月8日の当社の有価証券投資等の損失計上の先送りの発表の結果,国内及び海外(英国,米国を含む)の捜査当局,監督機関その他の公的機関の調査が開始されており,今後,これらの調査により新たな事実が判明した場合には,連結財務諸表を訂正する場合があります。

 上記の「その他の公的機関の調査」に,東京国税局の税務調査が含まれていることは間違いないわけで,オリンパス社とすれば,現段階で,課税漏れの指摘が公になったことに対する戸惑いの気持ちの方が強いのではないかと思うところです。国税職員には一般の国家公務員よりも厳しい守秘義務が課されていることから,建前上は,こうした情報が国税局から漏れることはありえないわけです。一方,報道する側は,マスコミ報道などの個別の調査事案はすべて,「記者が独自に取材して発掘したものだ」(田中周紀『国税記者』よりということです。しかし,株主総会が終了した後というタイミングでこうした報道がされたことに,国税当局と日本経済新聞の記者の間に,「何か」合意でもあったのではないかと,つい,うがった見方をしてしまいました。

 なお,中央経済社の税務弘報2012年4月号で,筆者も,オリンパス社の事件における税務上の問題を取り上げさせていただいております。

税務弘報 2012年 04月号 [雑誌]

税務弘報 2012年 04月号 [雑誌]

【税理士 米澤 勝】