[書籍]都井清史『会社法による決算の見方と最近の粉飾決算の実例解説』

会社法による決算の見方と最近の粉飾決算の実例解説 (KINZAIバリュー叢書)

会社法による決算の見方と最近の粉飾決算の実例解説 (KINZAIバリュー叢書)

 公認会計士・税理士である著者が,金融機関の担当者向けに解説しています。
前半の「会社法による決算」では,「非常に重要性が高いにもかかわらず軽視されている(著者「はじめに」より)」計算書類の注記について,丁寧な解説が加えられていて,計算書類作成にあたって注記を簡略化しがちな傾向に心当たりのある筆者としては,改めて,省略可能な注記を確認しました。

 次いで,最近の粉飾決算の事例として
 大王製紙(株)
 オリンパス(株)
 (株)エフオーアイ
の3社が取り上げられており,とくにオリンパス社の粉飾決算については,「財務諸表比率等から見る粉飾の兆候」と題して,異常点を検証しています。著者による異常点は以下の4つであり,なるほど,オリンパス社の過去の実績推移や他社比較を見ると,いまさらながら,その数値が異常であったことに驚きます。
(1) 無形固定資産(のれん,その他の無形固定資産)の総資産に占める割合
(2) 総資産回転率の低下
(3) 総資産利用率お呼び売上高利益率の低下
(4) 純資産額の推移と特定の科目との連動性

 同時に,オリンパス社の一連の報告についても,著者は具体的な問題提起をしており,これまでの調査と過年度決算の訂正,経営陣の交代だけですべての問題が解決したわけではないことを強く印象づけられます。
 ・短い期間の調査で,「これ以外に含み損はない」と断言できるのか
 ・子会社であるITX社が他社事業を買収したときには不正な支出はなかったのか
 ・訂正後ののれん1,330億円,その他の無形固定資産729億円の資産性に問題はないか
 → 純資産は1,156億円しかないため,債務超過になる可能性もある

 また,大王製紙者の事例の中では,中小企業の財務諸表で気をつけるべき点として,以下のような記述があり,参考になります。

 中小企業では役員への貸付金はほとんど資産性がないのですが,これ以外にも役員への支払が仮払金や立替金,その他の流動資産として放置されている例が決して少なくありません。その他の流動資産は企業規模の大小に関係なく,資産性に乏しいということを再認識する必要があります。
 粉飾決算の定番ともいえる循環取引についても解説が加えられていて,典型的な循環取引として
 ニイウスコー(株)
 メルシャン(株)
の2社の手口が紹介されています。
 ニイウスコー社の循環取引については,架空の棚卸資産を他社に販売したことにして利益を計上し,これをリース会社に転売させたうえで,自社でリース契約をすることにより,資金の融通を受けるとともに損失の先延ばしを図っている事例があり,筆者も税務弘報2011年10月号に寄稿した「企業内不正発覚後の税務――第2回棚卸資産の過大・架空計上」の中で,その発見の難しさについて言及しているのですが,著者も同じような見解を表明しておられます。

 資産の売却先からさらにリース会社へ転売されている点が循環取引たるゆえんですが,これを見抜くのは至難の技です。

【税理士 米澤 勝】