[税制]廃炉原発に対する固定資産税課税問題

 本日の東京新聞朝刊の1面トップ記事です。
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2012041790070536.html

 東京電力は事故直後に福島第一原子力発電所1〜4号機の廃炉を決め、帳簿残高をすべて損失として計上しているため,この時点で「用途廃止資産」となり,固定資産税(償却資産税)は課税されないものと考えられます。法人税法も,「有姿除却」として,損失計上は認められるはずです。

 ここで,総務省の横やりが入ったようです。記事を引用します。

 ところが、総務省電気事業法の「廃止」とは別に、課税判断のもとになる原子炉等規制法上の廃止計画が東電から出ていないことなどを理由に「事業継続中」と判断。事故後の状態をもとに初めて課税する本年度も、東電に「資産」として申告するように求め、1〜4号機の価値を評価することにした。実際は1〜4号機に価値をつけることは難しく、建設当時の価格の5%という最低限度額が適用されるとみられる。2号機は28億円以上、建設コストの高い4号機は40億円以上になる。

 ということで,東京電力は,稼働していない(というよりはこれからは色にどれだけコストがかかるかもわからない)原子炉について,評価額に対して1.4%の税率で計算した固定資産税が課税されることになるようです。廃炉となった4つの原子炉だけで1億数千万円の固定資産税を納付することになります。
 それだけではありません。1号機の建屋カバーや除染装置など,新たに設置した設備もすべて,固定資産税の課税対象となります。

 これに大きく上乗せされるのが、事故収束のために建設された設備の資産価値だ。昨年十月、放射性物質の飛散を防ぐ目的で、1号機に設置された建屋カバーは数百億円。二十三万トンもの放射能汚染水からセシウムを取り除く装置や海水の塩分を除去する装置、仮設防潮堤も建設費に応じて高額資産となる。

 一般事業会社であれば,課税の減免措置などを求めるところでしょうが,総括原価方式が採用されている公共事業では,こうした過重とも思える税負担であっても,コストに転嫁してしまえるということで,異議を申し立てたりはしないということでしょうか。
 東京電力が納付した固定資産税は,地元・大熊町の復興や住民サービスに活用されるわけですが,総括原価方式のもとでは,実際に負担しているのは私たち東京電力から電気の供給を受けている者ということになり,間接的な復興支援という風に考えればいいのかもしれないですが,役所の仕事を増やし,裁量を拡大させている印象が拭えません。
 廃炉となった原子炉には固定資産税は課さない,廃炉のための除染設備の固定資産税も大幅に減免する,その代わりに,地元・大熊町住民には東京電力・国から十分な賠償を行うという方法がなぜ採用できないのか,疑問に感じるところです。

 一方で,東京電力の固定資産税をめぐる話題では,気になる記事もありました。
4月8日の東京新聞朝刊トップで報じられたのは,東京電力の固定資産税の申告が遅れているということです。東京電力が,原子力発電のストップに備えて東京湾沿岸の火力発電所を増強したことで,地元自治体の税収が増えるという記事の最後に,こんな記述がありました。

 具体的な課税額はどの自治体も「まったく分からない」という。例年なら3月下旬には総務省を通じて課税額が通知されるが,今年は福島第一原発事故の影響もあり,東電の資産申告自体が遅れているためだ。1月末の申告期限から2カ月以上たった今も申告は行われておらず,市や都はやきもきしている。

 地元自治体の新年度の予算編成の中で,こうした設備に対する固定資産税の税収がどのように扱われているのかも気になるところですが,申告があまり遅れるようだと,増加部分のみならず,従来からの設備に対する徴税手続きも遅れることになるのではないかと懸念されるところです。

【税理士 米澤 勝】