[税制]「節税」できないシンプルな税制

 DIAMOND on line で毎週火曜日に評論家の山崎元さんが執筆している「マルチスコープ」を楽しみに読んでおりますが,先週の話題は,「確定申告の時期に考える『節税』できないシンプルな税制の実現」というものでした。
http://diamond.jp/articles/-/16141

 ちょうどその時期,筆者は,伊豆大島に「確定申告無料相談」の相談員として派遣されており,山崎さんの主張に大いに納得できる日々を過ごしておりましたので,山崎さんの主張を紹介がてら,税務相談の場で感じたことなどを述べたいと思います。

 山崎さんの文章は,ガン保険を使った法人向けの節税商品の紹介から始まります。山崎さんのもとにこの商品を売り込みに来たのが証券会社の営業であったというのは,筆者もびっくりですが,支払った保険料を法人税の計算上全額損金に算入しておいいて,何年かして途中解約して返戻金をもらうと,実効税率と返戻率を足すといくらかプラスになるという保険商品は,当然,保険料を支払った年度については法人税が少なくて済みます。
 こうした商品に対して,山崎さんはこう述べます。

 今回のガン保険の場合、悪賢い三者が結託することによって、国の税収を減らして、会社が実質的に少し儲けて、手数料を保険会社と販売会社(この場合証券会社)がごっそり頂く、という仕組みだ。こんなものが無ければあったかもしれない税収が無くなって、別の納税者がその分を負担すると考えると、この商品の関係者は「納税者の敵」でもある。
 保険商品の販売によって,保険会社と証券会社は利益を得て,その分,税収は増えるはずなので,山崎さんの批判はちょっと一方的すぎるかなとは思いますが,節税商品の関係者を「納税者の敵」とする考え方には,納得できる点もあります。
 ただ,ここで紹介されているような法人向けのガン保険を利用した節税商品については,国税庁が昨年11月に,生命保険協会に対して「税務取り扱いの見直しを前提とした検討を行う」旨の通達を行ったということで,現在は実質的に販売停止になっているようです。

 山崎さんの論点は節税のための保険商品から,税制一般について,展開します。

 現実を考えると、理想論に過ぎないかも知れないが、「節税」の余地など無い、誰でもがよく分かって、やり方によって損得の差が付かない税制こそが理想ではないか。納税者側が頭を使う必要がある税制は、制度考案者側の頭の使い方が足りないと考えるべきだ。
 この考え方には大いに賛同いたします。
 確かに,日本の税制は屋上屋を架す租税特別措置法によって複雑怪奇なものとなっており,税制改正の知識を持たない納税者は常に不利益な取り扱いを受ける危険性を有しているという現実があります。そうした複雑な税制が,「(国税のOBも多い)税理士の食い扶持を増やす」と批判されていることの事実です。
 また,平成23年度の税制改正の目玉の一つが,「公的年金等の収入が400万円以下で,かつ,他の所得金額が20万円以下の方は確定申告不要」という制度の新設でしたが,その制度にしても,「申告不要」というところだけが喧伝され,実際には申告をすれば源泉徴収されていた所得税額が還付になるのに,「申告してはいけない」という風に理解しておられる納税者の方が多くおられます。
 実際,申告相談に来られた納税者の方について,還付金が発生するか,追加で納税する必要があるかを試算させていただくケースがかなりありましたが,わずかな還付金だから申告しないと言ってお引き取りになられる方もいれば,計算の結果数万円の納付が必要となったのですが,「申告不要」なので申告書を提出しなければ税金を払わなくてもいいですよ,とご説明をしても不審な顔をされる方もいたりして,この「申告不要」制度は,公的年金等を支給する機関による所得税源泉徴収がある程度適正に行われていることが前提となっているはずなのに,ずいぶんバラつきがあるのを感じました。
 「申告不要」という,納税者の負担を軽減する措置(一方では課税庁側の徴税手続きの簡素化を図る目的もあるとは思うのですが)ひとつとってみても,山崎さんが批判する「やり方によって損得の差がつく税制」を作ってしまったのではないかと思う次第です。
 しかも,所得税の申告は必要なくても,住民税の申告は必要となる方が多く,あまり納税者の負担軽減にはつながっていないのではないという気がします。

 公的年金等については,現在のように他の所得と合算したうえで課税する方法(総合課税)をやめて,源泉分離課税にして,所得税も住民税も源泉徴収することによって,課税関係を終わらせてしまう方向で検討がされているのかもしれません(申告不要制度の創設はそのための第一歩ではないかとの考えを表明する方もいるようです)。やはり,公的年金等の受給者は当然のことながらご高齢者が多いわけですから,山崎さんが主張されるようにシンプルで,やり方によって納税額が変わらない仕組みが必要であることは間違いないと思います。

【税理士 米澤 勝】