[書籍]福岡政行『財務省解体論』

財務省解体論

財務省解体論

 最近,あまりTVでお目にかからなくなった(小職がTVを見ないだけかもしれないのですが)とはいえ,福岡教授による財務省解体論とあって,期待して読ませていただきました。何といっても「解体」ですから。まさか,国税庁と年金機構を統合しての歳入庁の創設,財務省からの分離くらいで,お茶を濁すような論陣は張らないだろうと。
 目次に目を通して,少し,違和感がありました。財務省解体論がないような気がしたからです。
 本文を読みながら,その違和感は確信になっていきます。福岡教授は,民主党政権財務省の傀儡になっていることを大いに批判します。野田政権は,財務省のパペット(操り人形)政権であることを,表現を変えながら指摘します。財務省がいかにして権力を掌握するに至ったか,第2次大戦後の占領時代に遡って,詳しく説明してくれます。そして,民主党が「政治主導」を掲げながら,財務省の軍門に下らざるを得なくなった背景についても,わかりやすく解説してもらいました。でも,第4章までには,財務省解体論は出てきません。
そして,第5章『求められる財務省解体! そして公務員の意識改革』と題された32ページの文章。しかし,その中にも,財務省の解体が必要であるという論拠は1行もありません。財務省に対する批判は,「増税しかない」という姿勢を崩さないこと,竹下政権時代に導入した消費税に関する複数税率に一貫して反対してきたことくらいです。

 この章の締めくくりの言葉には,少し失望しました。

 2012年は日本にとって大きなターニングポイントの年になる。
 政治漂流をどう止めて,日本復活への一歩をどう踏み出すか。
 今,正念場を迎えている。

 もちろんおっしゃる通りです。しかし,誠に申し訳ないですが,福岡教授は,その具体的な処方箋は,本書でお示しいただいているとは思えません。たとえば,最終章で『日本再生に向けての三つの提言』を書かれていますが,その内容は,

1 救国大連立
2 選挙制度改革
3 財務省の野望を認めないこと

ということです。目新しさがないだけではなく,どこにも本書のタイトルである財務省解体論は出てきません。財務省の野望とは「増税」であるとのことですが,それを阻むためには財務省の解体が必要であり,それが日本再生につながるというところまでですら,論理が展開されていないのは残念でした。もちろん,本来であれば,財務省解体後のあるべき姿まで語っていただかなければ,「財務省解体論」にはなっていないのではないかと思いますが,いかがでしょうか。

【税理士 米澤 勝】