[セミナー]第9回青山学院「会計サミット」

 20日(水),来そうで来ない台風を気にしながら,青山学院まで出かけてきました。「会計サミット」は9回目になるそうです。今年のテーマは『想定外リスクへの対応と会計の役割』ということで,「想定外リスク」をどう定義するのか,期待しながら聴講させていただきました。

 第一部特別講演は株式会社小松製作所会長の坂根正弘さん。「ダントツ商品」と「ダントツサービス」で「ダントツ経営」を実現されたプロセスを興味深く拝聴しました。建設・鉱山機械の需要では日本は10%を切っており,日米欧を合わせても30%である一方,中国は40%に迫ろうとしているという現実。世界人口が爆発的に増えている中,近い将来,日本は食料輸入すら不可能になるのではないかという懸念。自然エネルギーだけで100億人を超える人間の需要を賄えないのは自明であるが,福島原発の事故でプルトニウムは使えなくなっていしまった現状。司会の町田教授から,「日本で一番講演のお願いをしづらい」というご紹介がありましたが,短い時間ながら示唆に富むご講演で,講演依頼が引きも切らないという評判を一端を見させていただきました。

 第二部パネルディスカッション。コーディネータはおなじみ八田進二教授。迎えるパネリストは5人。青山学院の小西教授。日本マネジメント総合研究所の戸村さん。日本IR協議会の佐藤さん。日本政策投資銀行の横山さん。プロティビティの神林さん。学者,コンサルタント,投資家,銀行マン,公認会計士といった視点の異なるメンバーの議論を八田教授がどう舵取りをしていくのか。しかも,ディスカッションのテーマは「想定外リスク」。八田教授のパネルディスカッションではおなじみの手法である,まず,各パネリストが基調報告を10分から15分程度行い,ディスカッションへと移行する手続が,今回も採択されていました。小西教授の「リスク情報開示の現代的意義」と題した報告からスタートし,神林さんの報告が終わった段階で,いよいよディスカッションに移ります。
 論点はいろいろありましたが,筆者が面白いと感じた表現は,戸村さんが「リスクはサッカーのオフサイドラインのようなもの」と例えた点でした。まずはリスク情報の開示,包み隠さずに出すことが肝心で,それをネガティブかポジティブかを判断するのはあくまで受け手側であること。その評価のラインは常に変動し,しかも開示する側が判断するわけではないこと。そんな趣旨だったと記憶しています。あとで聞いた話では,戸村さんは公認不正検査士資格も有しておられ,若手の論客としてセミナーの人気が高いということだそうですが,他の発言でも,そうした評判もうなずけるよう瞬間がありました。
 神林さんからは「どこまで想定をして対策を講じたのか,どこで線引きをしたのかといったことに関する説明責任をどう果たすか」とか「現在開示されているリスク情報は外部リスクに偏向しており,免罪符的な開示にとどまっている」といった問題提起があり,佐藤さんからは「わかりやすい説明」とはどういうものか,言及がありました。横山さんからは,大口債権者の常務執行役員として,東京電力の救済策と日本航空の破綻処理に相違点についてのコメントが欲しかったところですが,さすがに一般的な話にとどまったのは立場上しょうがないところでしょうか。
 ディスカッションの最後に会場から「東京電力をはじめとする電力会社のリスク開示はどうあるべきか」という質問があり,それに答える形で,小西教授は「企業の経営活動において想定外はあってはならない」といった趣旨の発言がありましたが,その発言を聞いて,筆者は堀江貴文氏を思い出しました。彼がインタビューのたびに「想定内です」と発言していたことは記憶に新しいのですが,本来,経営者とはかくあらねばならないのかもしれません。

 配布されたパンフレットの巻末にこれまでの歴史として,過去の講演者やパネリストの名前が掲載されておりました。公認会計士の山田信哉さんや経済評論家の勝間和代さんといった,少し懐かしく(失礼)思える名前が特別講演に招かれているのに並んで,木村剛氏も,第2回に特別講演で登壇し,第6回にはパネリストとして参加しています。当時の木村さんがどんなことを語っていたのか,興味をそそられながら,会場を後にしました。

【税理士 米澤 勝】