年金型保険に対する二重課税問題

ようやく,という感じですが,国税庁のHPに公開されました。
http://www.nta.go.jp/sonota/sonota/osirase/data/h22/sozoku_zoyo/pdf/9382.pdf
ニュースはこちら。
http://www.nikkei.com/news/category/article/g=96958A9C93819481E2E3E2E29E8DE2E3E3E2E0E2E3E29C9CE2E2E2E2;at=ALL

所得税法施行令の改定や法令解釈通達の発見が今月下旬となるようで,実際の還付手続きの開始も同じ頃から始まるようです。
基本的には,これまでの課税上の取扱いをできる限り踏襲しながら,「相続税または贈与税の課税対象となった部分」だけを非課税として,その年分の所得税を計算する方針のようです。たとえば,課税部分を雑所得として課税する点,支払った保険料は必要経費として課税所得を計算する点,源泉徴収対象額の10%を生命保険会社等において徴収する点など,これまでの仕組みの大枠は残ります。
気になっていた時効については,平成12年分以降が「特別な還付措置」により,救済される方向性が示されています。「税務署における確定申告書等の保存期間や民法の債権の消滅時効の期間等を踏まえ」て,過去10年に遡って還付するという結論になったようですが,個人的には,国税局の言い訳が気になります。
特別な救済措置をあまりに長期間にわたって遡らせるがゆえに,証拠書類の保持・不保持といった事情により,かえって納税者の間で不公平が増すようなことも,税制及び税務に対する信頼を確保する上では避けなければなりません。
税制および税務に対する信頼の確保という意味では,10年という期間制限は設けるべきではなく,むしろ,納税者が,還付金の発生を証明できれば,時効に関係なく還付すべきだと思いますし,逆に,平成12年度分以降についても「証拠書類の不保持」といった事情を有する納税者は相当数存在するだろうと推測できますが,そうした方々の救済をどうやって図るのか,今回のリリースだけでは不明です。とくに,すでにお亡くなりになっている納税者の救済はどうするのでしょう。
なお,還付手続きである「更正の請求」または「確定申告」は,過去5年分については「取扱いの変更を知った日の翌日から2月以内」に行う必要があり,かつ,平成17年度に年金払の保険金を受け取りながら確定申告をしていない方は,今年の12月31日までに還付申告を行う必要があります(平成17年度に確定申告をした方は平成17年度の申告書を提出日から5年間が減額更正の期限となります)。ただ,これらの期間制限についても,上記の「特別な還付措置」と一緒に法律を改正することにより,期間が延長されることになりそうです。

実際の課税関係がどうなるかについては,もっとも単純な「10年払い(有期),均等額」のタイプの保険金について計算方法が添付されています。国税庁は「簡易な方法」と称していますが,年金額が変動する場合や終身受取型で支給期間が決まっていない場合など,年金の支払方法や支給期間が複雑な契約に関しては,具体的な計算方法は示されていません。

判決が出てから約3カ月,一応の方向性は示されましたが,まだまだ,具体性に欠けるというのが印象です(国税庁も「方向性」と言っています)。第1審判決が出てからすでに4年近い歳月が過ぎていますが,その間,国税庁内部では,この問題について何ら検討がされてこなかったのでしょうか。もし,そうであるとするなら,課税庁としての懈怠を謗られても仕方がないのではないか,というのが筆者の意見です。還付を受ける可能性のある人には,生命保険会社等から,年金情報等が個別に通知されるということですので,そのあたりの調整に時間がかかったのではないかと推察しますが,平成22年度税制改正で,年金払で受け取る生命保険金等の受給権の評価方法を変更していることを併せて考えると,まったく準備をしてこなかったわけではないでしょうから,もう少し早い対応はできなかったのかと思います。

対象件数が最大で9万件,還付税額も90億円に達する見込みということですから,今後検討していくという「特別な還付措置」においては,より多くの納税者を救済するという方向で議論が進むことを期待するとともに,今後発表されるであろう方向性を注視していきたいと考えます。

(米澤勝)