税制改正(納税環境整備に関する改革の方向性))

27日,冷たい雨の降る日に行われた,租税訴訟学会が主催する研究会『納税環境整備に関する改革の方向性』に参加しました。
納税環境の整備とは,文字だけ見ると,納税の簡便性――コンビニ納付とか,ネット納税などを思い浮かべてしまいそうですが,実際には,昨年末に公表された『税制改正大綱』におけるサブタイトルである「納税者主権の確立へ向けて」の施策の目玉です。大綱では,
・納税者権利憲章(仮称)の制定
国税不服審判所の改革
社会保障・税共通の番号制度導入
・歳入庁の設置
・罰則の適正化
・納税環境整備に係るPT(プロジェクト・チーム)の設置
の6項目が挙げられています。6項目の中では,PTは活動しており(軌道に乗っているかどうかはともかく),罰則の適正化も,平成22年度税制改正で一定の適正化(というよりは,強化)が図られております。
新聞報道などでは,共通番号制の導入や歳入庁の設置といった,「納税環境の整備」というよりは「課税・徴収環境の整備」とも呼べるような話題が中心ですが,研究会では,納税者権利憲章,国税不服審判所の問題点といった大綱で触れられている課題の他にも,租税訴訟における不服申立前置,税務苦情処理,税務調査の問題点など,納税者の権利をいかに保護し,救済するかという視点でパネリストのみなさんが発言されていました。
なにぶん,非常に大きなテーマであり,論点も多岐にわたっていることからパネリストの発言時間にも制限があり,採り上げられたテーマそれぞれに深い議論ができなかったのは仕方のないところでしょう。

冒頭,基調講演をされた菅原万里子弁護士が,行政手続法と国税通則法のそれぞれ第1条の目的を比較して,国税通則法に「納税者の権利」という意識がないことを指摘していました。今さらですが,これらの法律の目的には,こうあります。
行政手続法:行政運営における公正の確保と透明性(行政上の意思決定について、その内容及び過程が国民にとって明らかであることをいう。)の向上を図り、もって国民の権利利益の保護に資すること
国税通則法:税法の体系的な構成を整備し、かつ、国税に関する法律関係を明確にするとともに、税務行政の公正な運営を図り、もって国民の納税義務の適正かつ円滑な履行に資すること
なるほど,「納税者の権利利益の保護に資すること」が国税通則法の目的ではないわけです。国税通則法は第74条の2で,行政手続法の規定は適用しないことを定めているため,「国税に関する法律に基づき行われる処分その他公権力の行使に当たる行為」については,国民の権利利益の保護は,目的とされてないことになってしまいます。

また,配布された資料の中では,韓国の国税基本法が紹介されていて,たとえば,81条の3では,「税務公務員は,納税者が誠実であり,納税者が提出した申告書等が真実であるものと推定しなければならない」と規定されていて,日本の税務署員のみなさんにも見習っていただきたいものだと思った次第です。

納税者権利憲章の制定について,筆者は,大いに賛成です。憲章を作ればいいのか,どの法律に規定するか(国税通則法の改正でいいのか,納税者権利保護法のような新たな立法を求めるのか),内容をどうするかなど,議論は尽きないわけですが,税制調査会での議論の推移を見守りたいと思います。
なお,菅原弁護士が代表を務めておられる「納税者権利保護法を制定する会」のHPでは,納税者権利保護法の法案が公開されています。
http://bill-of-rights.jp/index.html

(米澤勝)