[話題]政治資金収支報告書監査

 東京新聞は朝刊3面の「核心」という記事で,政治資金報告書について,意欲的な記事を配信しています。取材された記者は名古屋社会部の木村靖氏。一応,「登録政治資金監査人」である筆者にとっては,大いに参考になる記事でしたので,概要を引用しつつ,私見を述べることにしたいと思います。

 まず,8月23日付の朝刊の見出しを拾っておくと
http://www.tokyo-np.co.jp/article/kakushin/list/CK2010082302000049.html
(記事の一部が公開されています)
  名ばかりの外部監査
  肝心の収入対象外
  モラル頼み「家計簿の延長」
 5月末現在で3,674人の税理士,公認会計士,弁護士が政治資金適正化委員会に登録しており,彼らが,2009年分から政治資金報告書の外部監査を担うことになっています。ところが,その実態は,
  収入は対象外。支出が妥当かどうかは判断しなくていい「外形的・定型的な監査」
であり,国税OBの税理士はこう指摘しています。
  「損益計算書貸借対照表も公開され,多面的に収支が検証できる企業決算と比べ,収支報告書は家計簿の延長で,通帳と照合するようにしない限り,信頼性は担保できない」
 そもそも,議員立法で改正された政治資金規正法で導入が決まった制度である以上,ある程度,国会議員に甘かったり,抜け穴があったりするのはしょうがないともいえるのでしょうが,最初から収入が監査の対象外である以上,たとえば小沢さんの問題なども,現行制度では発見も指摘もできないわけです。

 続いて,本日(9月8日)付の見出しからは
http://www.tokyo-np.co.jp/article/kakushin/list/CK2010090802000045.html
(記事の一部が公開されています)
  「身内監査」が横行
  特定の税理士ら集中
  独立,中立性に疑問
 総務省が実施した登録政治資金監査人に対するアンケートによると,実際に監査に携わった政治資金監査人は全体の26.1%にとどまり,「国会議員の確定申告を担う税理士」がその有する複数の政治資金団体を一手に引き受けている実態が浮かび上がったとのことです。なお,このアンケートは当然,筆者の手許にも来ており,「監査していない」との回答を提出しているのだが,全体の4分の3が,名ばかりの「登録政治資金監査人」となってしまっているとは,実はある程度,予想されていたことでもあります。
 紙面で引用されている政治資金団体関係者の言葉は,
 「国会議員の力量に直結する懐具合の監査を,あえて部外者に見せる筋合いはない」
というものでした。
 その結果,税理士業務として議員の確定申告を受託している人は「政治団体と密接な身分関係を有する者には当たらない」(総務省)という見解のもと,結局,常日頃から付き合いのある税理士が,確定申告のついでに,政治資金監査を引き受けているのが実態となってしまっているようです。これでは,記事の中の税理士の言葉ではありませんが,
 「監査の独立性や中立性の趣旨からすると,私のような立場は一般国民からは“身内”に映るだろう」
ということになるのではないでしょうか。
 「政治資金オンブズマン」共同代表の公認会計士松山治幸さんは,記事の中で,国会議員の確定申告を担った人は,その議員の関連団体の監査を禁じるべきだとの考えを示したとそうです。筆者も同感であり,少なくとも,その程度の制度変更は2010年度の政治資金報告書監査からなされなければならないのではないか,民主党政権下でなら可能なのではないかと,考える次第であります。

 政治資金監査が収入も対象に含めて,その収入・支出の妥当性の判断まで踏み込まなければ実効性を上げることは難しいと思います。
 しかし,現状のままでも,たとえば,政治資金報告書監査は,政治団体が監査人を選ぶのではなく,政治資金適正化委員会が,登録された政治資金監査人の中から,ある程度機械的に割り振って行わせることは可能ではないかと思料します。万一,割り振られた国会議員と密接な関係がある監査人,あるいは業務の都合上監査を引く受けられない監査人には辞退することを認め,国会議員と関係のない監査人による監査により,制度の中立性,独立性はこれまで以上に担保されることになると考えます。
 そのうえで,政治資金報告書監査に係る費用は法定とし,政治団体から政治資金適正化委員会が収受したうえで,監査人に報酬として支払えば,なお,監査の中立性,独立性は高まるのではないでしょうか。監査費用を法定化するに当たっては,政治団体が1年間に集めた政治資金の総額を目安にすれば,基準作りはそう難しい作業ではないはずです。

 政治資金報告書監査は始まったばかりの制度ですので,まだまだ改善点は多いと思いますが,納税者としては,少なくともこの制度が退化しないよう,11月末までに公表されることが予定されている政治資金収支報告書にどういう記載があり,政治資金監査人がどういう判断をしているのか,注視していきたいと思います。

(米澤勝)