[書籍]『内部告発・内部通報――その「光」と「影」――』

 弁護士であり,日本公認不正検査士協会(ACFE JAPAN)の理事でもある山口利昭先生の労作です。外部通報窓口として,企業からの内部通報を受ける立場(外部通報窓口)にある弁護士としての知見に溢れた内容であり,現在の内部告発・内部通報が抱える問題が多面的に考察されており,大いに参考になりました。
 たとえば,通報者が不正の目的に基づく通報を行っているかどうか。通報者に匿名を認めるかどうか。通報者の匿名性をどうやって確保するのか。こうした論点が,企業における内部通報制度の整備・運用と公益通報者保護法の目的を比較対照しながら,実にわかりやすく述べられています。そして,引用されている豊富な事例と裁判例について,内部通報を受ける実務家としての視点で解説され,問題点が明らかにされています。
 興味深く読んだのは,顧問弁護士と外部通報窓口を委託する弁護士の関係について,こう書かれている点です。
 顧問弁護士は会社や役員の利益保護のために尽力する立場である。外部窓口は会社や役員と対峙する可能性のある労働者の通報を公正独立の立場で受理し,また必要があれば調査業務にも従事する立場にある。はたしてこのような立場の業務が,顧問弁護士の職責と相容れるものなのかどうか疑問なしとしない(利益相反関係に立つ場面も想定される)。 (p.154-155)
 内部通報制度を外見上整備したように見せるため,安易に顧問弁護士の事務所を外部通報窓口としてしまうと,あとで思わぬしっぺ返しにあう可能性があることへの,山口先生ならではの警鐘でしょうか(もちろん企業側に対するものだけでなく,弁護士に対するものでもあると思います)。
 その他にも,「内部通報制度は従業員の苦情処理のための制度ではない。」とか,「不祥事公表に関するリスク管理は『経営判断の問題』では済まない。」といった山口先生の指摘は示唆に富んでいます。

 読者として,一つだけお願いが許されるなら,引用されている事件や判決について,巻末の参考資料に一覧表を掲載いただき,事件の概要や裁判その判断などがすぐにわかるようにしていただければ,ひじょうに助かるのではないかと思っています。などと書くと,本書でとりあげた事件や判決くらい,きちんと理解し,記憶しておきなさいと叱られそうですが。

 それにしても,外部通報窓口を担当するというのは大変なことだと,改めて感じました。

(米澤勝)