[税務争訟]相続税と所得税をめぐる二重課税――最高栽判決

先月,本ブログでとりあげさせていただきました「相続税所得税めぐる二重課税」訴訟につき,本日,最高裁判所で,判決が言い渡されました。法廷の中にTVカメラが6台。撮影時間は開廷前の2分間で,その時間に,TVニュースで流れる裁判官が撮影されているという仕組みを,初めて知りました。
判決の言い渡しはあっという間です。那須弘平裁判長により,原判決が取り消され,納税者の全面勝訴となりました。
詳細は,すでにニュースでとりあげられています。
http://www.nikkei.com/news/headline/article/g=96958A9C93819695E2E4E2E3938DE2E4E2E5E0E2E3E2E2E2E2E2E2E2
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&rel=j7&k=2010070600175

最高裁判所において,弁論がなされたことから,原審である福岡高等裁判所の判決が覆るのは予期していたとおりで,代理人弁護士および補佐人税理士は,司法記者クラブで記者会見を行うとのことです。

救済すべき納税者(相続税の課税対象とされた生命保険金を年金で受け取る際に,生命保険会社から源泉徴収された後の保険金を受領してきた人たち)の数の多さから考えても,実務において大変な混乱を喚起する判決であることはいうまでもありません。しかも,判決によれば,源泉徴収を行った生命保険会社の行為は適法であるとしているところから,受給者(源泉徴収された保険金受取人)は,国に対して,過去の申告を修正(更正の請求)をして,所得税の還付求めることになります。更正の請求には期限が定められており,問題になるのは,その期限を過ぎてしまった年度の所得税をどう救済するかということです。当然,国税庁をはじめとして関係省庁で,何らかの救済措置を採るべきであると考え,協議されることになるでしょう。
一方,国に対しては,国家賠償法に基づく損害賠償請求ができるのではないかと考えます。折しも,最高裁判所第一小法廷は,平成22年6月3日に,「違法な賦課決定によって損害を被った納税者は,取消訴訟の手続を経るまでもなく,国家賠償請求を行い得る」という判決を出したばかりであり,この判決を援用して,国に対する損害賠償請求訴訟が提起されることも十分予見されるところです。

国税庁側は,平成22年度改正で,年金払で受け取る生命保険金(定期金)について,これまでの評価方法を改め,受取金額に近い評価により相続税を課税することとしていますので,今日の判決を踏まえて,本件のような年金払の生命保険契約に関する取扱通達を発布すれば,とりあえず,最高裁判所の判決を順守することはできそうです。
ただ,国税庁には,そうした小手先の改正で幕を引くのではなく,年金払の生命保険金に関して,昭和43年に通達を出したきりで,それ以降ずっと見直しを怠ってきた不作為について,謙虚に反省をしてほしいものです。そういう意味では,上告審における国側の答弁書で,「上告人には相続税が課されていないのであるから,本件処分により本件年金に対して所得税を課すことが実質的・経済的にみて二重に課税をすることにはならない」などと主張する姿勢こそ,批判されるべきものであると考えます。
納税者の補佐人を務められた税理士の江崎先生は,前回の口頭弁論後の研究会の席で,本件が長く徴税実務の中で問題にされてこなかったのは,私たち税理士の責任でもあると力説されていました。法律に規定があるから仕方がない。通達にしたがっていれば間違いない。そうではなく,おかしいものはおかしい。江崎先生の揺るがない姿勢が,納税者(上告人)の理解を得られ,5年に及ぶ訴訟を継続して,今日の判決につながったものだと思います。

(米澤勝)