[税制]不公平な税制をただす会『日本税制の総点検』

税制改正の問題を考えている最中に,『日本税制の総点検』と題された本を読みました。編者のお一人は,日本大学名誉教授の北野弘久先生。東京税理士会の研修でも何度となく講師としてご登壇され,『納税者の権利』(岩波新書)や『税法問題事例研究』(勁草書房)などの著作があります。本書『日本税制の総点検』は,「不公平な税制をただす会」発足30年にあたってまとめられたもので,2008年10月刊行ということから,リーマン・ショックとその後の大不況(税収の落ち込み)や民主党政権の誕生など,現在の日本からすると少し時宜を逸した論点もあるとはいえ,示唆に富む論文集でありました。

不公平な税制をただす会(以下「ただす会」と略称させていただきます。)という組織については,その存在を認識しておらず,自らの不明を恥じた次第であります。ただす会の主張は,これまでの政府税制調査会が推進してきた「誰もが痛みを分かち合う」「広く薄く」といったフラット・タックス(消費税の導入,所得税相続税における最高税率の引き下げなど)を真っ向から否定し,税制の公平さを「応能負担原則」に求めています。応能負担原則とは,「私たちの租税の負担の仕方については,人々の能力に応じて公平に租税を負担するという原則」をいい,「超過累進税率の適用,最低生活費非課税の原則,一定の生存権的財産の非課税または軽課税の原則を要請」するというものであり,政府税調のこれまでの答申とは一線を画するものだといえます(引用は北野先生の論文『税制の基本原理』本書47頁以下)。

平成22年度の税制改正は,相続税の課税ベースを広げる(小規模宅地の特例の適用厳格化)の一方,富裕層を対象にしたと思われる住宅取得等資金に関する贈与税の非課税の拡大など,ただす会の主張とは逆方向の改正がなされているように思います。
私自身,あるべき租税の姿として,消費税中心の広く薄く課税する方針がいいのか,消費税導入前のような超過累進税率に戻して大企業,資産家,富裕層から応能の負担を求めるのがいいのか,一概には判断できません。ただ,これらは二者択一の問題ではなく,両方の衡量を考えることが税制の基本だとは思いますし,現行所得税の超過累進税率があまりに富裕層に有利であるというのは間違いのないところでもありますので,応能負担原則に立ち返って,税制のあり方を考えるという視点は傾聴に値する論考でありました。

不公平な税制をただす会HP
http://japan-taxpayers.org/jacuts.html


【税理士 米澤 勝】