平成22年度税制改正と税制改正大綱

平成22年度税制改正の中身が,関連する雑誌記事やセミナー,研修会などへの参加によって,どうにか見えてきました。個人的な印象では,改正の柱は,(1)グループ法人税制の創設と,(2)相続税における小規模宅地の特例の適用要件の厳格化,ではないかと思います。

財務省による税制改正パンフレット
http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/zeisei10/pdf/10zeisei.pdf

グループ法人税制の創設は,資本関係が同じ親子会社関係でありながら,連結納税制度を選択している企業グループと選択していない企業グループにおける法人税の取扱いにおける不平等を是正するための改正で,グループ内における事業の統合・再編には便利な制度であると評価する方もいらっしゃるようですが,結局は,グループ会社間取引における意図的な利益隠しを許さないために講じられた措置であると考えます。
例えば,利益が出ている会社の有している含み損のある資産を,グループ会社に売却して損失を認識し,節税を図るというような行為は,このグループ法人税制の下では,損益が繰り延べられるため,今後は使えなくなります(強制適用です)。
連結納税制度もそうですが,関係会社間の取引を利用した租税回避行為について,何とか課税してやろうという課税庁側の意図が感じられる改正だと思います。

一方の相続税における,小規模宅地の特例の適用要件を厳格化する改正については,これまで,事業や居住の継続を適用要件に入れていなかった特例につき,「相続税の申告期限まで」の事業・居住の継続を要件として加えるとともに,取得者が複数いる(共同相続)場合,居住と貸付の両方の用に供されている場合,それぞれ,これまでは小規模宅地等をまとめて(有利な方で)減額対象としていましたが,これを,取得者ごと,用途ごとに区分して,減額の適用を認めることとしたもので,これまで相続税対策として行われてきた納税者の自衛策の選択肢が狭められることとなりました。
23区内に自宅を持つ被相続人であっても,これまでは,小規模宅地の特例のおかげで,自宅以外の資産が大きくなければ,相続税の課税対象となる人は少なかったのですが,今後は,特に子どもが別居している場合(子どもが取得した部分は特例の適用対象外)など,相続税の納税が必要になることが予想されます。
なお,相続税については,格差是正の観点から,相続税の課税ベース,税率構造の見直しについて,平成23年度改正を目指すとの方針が打ち出されています。

税制改正大綱』の実現に向けた第一歩となる平成22年税制改正は,印象からすると。「小幅で,増税志向が強い」ものであると言わざるをえません。が,先週の金曜日,東京税理士会の研修で講師を務めていただきました,税制調査会専門家委員会の委員でもある,青山学院大学教授の三木先生のお話では,税制調査会における議論では,『税制改正大綱』に明記されているかどうかが,優先順位に大きく影響をするということですので,同大綱における,改革の視点でまっさきに採り上げられている「納税者の立場に立って『公平・透明・納得』の三原則を税制のあり方を考える際に常に基本にします」という文言を実現させるよう,現政権に期待したいと考えています。

(米澤勝)